追憶の汗(6)

ノキルの脳裏に葛藤が現れる。


それは、ノキルの心を惑わせた。


木刀を手放せば、アレスの攻撃を受ける。


そうすれば、この実戦練習も終わるのだろう。


ふと、木刀を持つ握力を緩める言い訳を探し始める。


走馬灯のように現れては消える言い訳。


その言い訳の数々は、視界を横切り、目の前のアレスを見えづらくする。


この実戦練習も、いつかは終わる。


言い訳に帯びたノキルは、まるで、打ち捨てられるサンドバッグのようだった。


しかし、それでは駄目だ。


王族に生まれた以上、国を守り、国王様を守り、エシア王女様を守ると決めた。


エシア王女様に、親兵になると告げた夜の事を今も鮮明に思い出す。


月明かりが朧げに庭を照らし、虫の音が陽気に囃し立てる中。


ノキルは、エシア王女様に親兵になると告げた。


エシア王女様は、ぴょんぴょんと小さく跳ねて、満面な笑みで喜んだ。


ノキルを抱擁し、その溢れそうな程にきらきらとした笑みを分かち合った。


エシア王女様の温もりと優美な香りを感じた、あの時、心に誓った。


エシア王女様をお守りすると。


その笑みを裏切る訳にはいかない。


その為には、アレスにも負けられない。


握力に意志が通い、木刀をきゅっと握り直す。


視界を邪魔していた言い訳も、瞬く間に払拭して、アレスが鮮明に見える。

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