追憶の汗(5)

踏み込んだ拍子に、ざさっと、靴と地面の擦れる音が鳴った。


これで勝敗を決めると意気込んで、木刀を振り下ろした。


しかし、そこには、アレスの姿は無かった。


当てる相手のない木刀は、空気を斬る。


振り下ろす勢いを両手で止められず、そのまま、地面を打つ。


地面には、拳くらいの大きさの石が落ちていた。


はっ! と気が付いた時には遅かった。


アレスは、私の真後ろに立っていた。


アレスは、木刀を下段から上段に振り上げる。


ノキルは、身をのけ反り、かろうじて避けた。


アレスの木刀の先端が、ノキルの胸当てを僅かに削る。


ノキルは、木刀を構えて、アレスと対峙した。


「ノキルさん。音で惑わされてはいけません。音は、目で見なくても、耳で捉える事ができます。耳で音を捉えて、音の無い場所に目を向けるのです」


疲労困憊したノキルの腕は、ぷるぷると震えていた。


木刀を構えるのも、やっとだった。


アレスは、ノキルに休む隙を与えず、再び攻撃を始めた。


アレスは、容赦なく、攻撃を繰り返す。


アレスの猛攻に、ノキルは、ひたすら耐え忍ぶ。


アレスの攻撃を木刀で受け止めるだけで、精一杯だった。


私は、骨盤から下に重心を集中させて、足で地面を掴み、踏ん張る。


しかし、踏ん張る靴先で地面を掘りながら、じりじりと後方へ圧されていく。

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