追憶の汗(4)

 回り込まれたら終わりだ。


ノキルは、一つ大きく呼吸を取り込み、林の中へ一目散に走った。


林の中は走りづらい。


はらり、はらりと少しずつ、落ち葉が落ちゆく。


木々の太い根が地表面に姿を現して、不規則な凹凸が作られている。


時折、その根に足を取られる。


落ち葉を踏むと、ぱりっとした高音が鳴り、私の居場所を教える。


伸びた小枝が、駆けゆく先々に在る。


しかし、走る速度は緩めない。


腕で顔を守り、走っていく。


体に小枝が当たる度に、ぱきっと折れる音が鳴る。


小鳥達は、ぱたぱたぱたと林から空へ飛んでいく。


ある太い幹の裏に隠れた。


ノキルの高鳴る緊張感に息が詰まる。


ちらりと、林の中を見渡す。


アレスの姿が無い。


耳に集中する。


林の中は静まり返っていた。


アレスの歩く音も聞こえない。


鎧の擦れる音も聞こえない。


ノキルの囃し立てる鼓動だけが、耳を急かす。


アレスを探すべきか、じっと待ち、好機をうかがうべきか。


その時、近くの木の裏側で、ざざっと音がした。


きっと、その木の裏側にアレスが居る。


この距離で、攻撃をしてこないという事は、まだ、見つかっていないはず。


ここからなら、飛びかかれば、奇襲できる間合いだ。


ノキルは、木刀を上段に構えて、足の指で地面を掴み、飛びかかった。

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