追憶の汗(7)

アレスの木刀の動きに集中する。


一つ一つの斬りつける木刀を確実に受け止め、外へ払い除ける。


それに気がついたアレスは、突然、木刀の先端をノキルに向け、胸を突いた。


鎧に守られて、刺し傷にはならないものの、凄まじい圧痛が走る。


ノキルは、不意な圧痛に悶えながら、林の外へと突き飛ばされた。


空気を吸い込もうとしても、肺が吸ってくれない。


ノキルは、目は丸くして、呼吸ができない事に恐れる。


自然と涙が込み上がる。


しかし、息ができない助けて欲しいと求める甘えの涙だと気がついた。


涙がぼろぼろと溢れ、兜を濡らす。


ノキルは、涙を溢しながら、立ち上がった。


アレスは、そのノキルの涙を構う事なく、攻撃を繰り出す。


段々と足が痺れ、手先が痺れ、胸の上部が痺れてきた。


頭の中が膨張するかのように、ぼわんと虚ろになる。


それと同時に、視界の外側が、じわじわと暗転し始める。


アレスの攻撃を受け止めるので精一杯だった。


呼吸のできない恐れが、私をどんどん追い詰める。


少しでも空気を取り込もうと、細かく呼吸を試みる。


僅かに肺が膨らんだのを胸が感じた。


その瞬間、恐怖が、すうっと消えて無くなった。


涙の水界にアレスの姿が見える。


ノキルは、瞬間的に、目を強く瞑り、涙を追いやった。


水も漏らさぬ態勢で、アレスをはっきりと見る。

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