何か好きなものいろいろ

マッドサイエンティスト? 『日本沈没』



 うちの奥さんがTBSの日曜21時の日曜劇場「日本沈没~希望のひと~」を録画していたので私も後で録画されてたのを見ました。


 今更言うまでもありませんが、原作は小松左京先生の大ベストセラーです。

 映像化も何度もされていて、藤岡弘、さんが主人公小野寺役だった1973年映画版、村野武範さんが主人公小野寺を演じた1974年TVドラマ版、草彅剛さんが主人公小野寺を演じた2006年映画版、NETFLIX独占の2020年アニメ版、などがあります。


 私は、実は2006年映画版しか映像化作品は見ていないんで、随分と原作小説から変えちゃったんだなあって思ってがっかりした覚えがあります。

 私は何故か中学1年生の時に家にあった文春文庫版の原作小説を読んだだけだったので、映像作品への期待値が高かったのでしょうね。

 私が中学生の頃は1980年代の半ば~後半だったので、まだビデオデッキもソフトも普及してなかったので過去の映像化作品は見れなかったのです。

 原作小説の主人公小野寺と恋人玲子の関係は、2006年映画版よりももっとドライでウェットで、相半するその感じが同居する大人の関係だと思っていたのでちょっと思っていたのとは違うな、というのもありました。原作の中の小野寺と玲子のエッチなシーンに期待と股間を膨らませたマセガキにとっては、戦友的な親愛が強い関係じゃないんだよなあ、と思ったりしたのです。


 まあそんな個人的な思い出は置いておいて、今回の日曜劇場「日本沈没」は、原作小説からガラッと登場人物が変わっています。


 原作小説も日曜劇場版も群像劇です。原作の一応の主人公は小野寺という民間会社に在籍する深海潜水艇の操縦士でしたが、今回のドラマでは天海啓示という環境省の官僚ということになっています。他の登場人物も殆ど全て名前も役回りも違っていて、今回の日曜劇場版の方がより「政府の危機管理対策」にフォーカスした作り方になっています。

 まあこれは「シン・ゴジラ」がどストライクだった私にとっては、興味の湧く改変ではあるのでOKです。


 それで、これだけガラッと登場人物名も役回りも変わった中で、唯一変わっていないのが最初に日本沈没を予見し、初期に対策の中心となる地球物理学者「田所雄介博士」です。日曜劇場版では香川照之さんが演じていますが、これまで香川さんが演じて来た半沢直樹の大和田専務など日曜劇場の個性的な悪役とはまた違ったクセのあるマッドサイエンティスト感を出して演じており、これがけっこういい味が出ていて、多少のやりすぎ感はあるもののクセになります。


 自説の証明と研究の為に世事は二の次。他者に対して傍若無人。ひたすら研究に邁進するその姿はまさにマッドサイエンティストです。

 田所博士は、自分の進めた事業「COMS<コムス>」が日本沈没を引き起こす一因になったのではないかと悩み「『COMS<コムス>』は本当に影響しているんですか?」と問う主人公天海に、「可能性は十分にある! 君は深く反省しろ!」と一刀両断に返答します。気遣いもへったくれもありません。

 しかし続けて、「だが、……それだけで関東が沈む訳じゃあない。……地球の環境変化は、人間が積み重ねた長ーい歴史の中でもたらされたものだ。その責任は……我々全ての人間一人一人にある……だから私はこうして研究を続けている。 君が、何をどうするかは……君が決めろ」と、天海一人の責任ではなく、これまでの人間の生の積み重ねの結果であり、自分にもその責任の一端はあると伝えます。

 別に田所博士は環境を破壊する人間を嫌っている訳ではないのです。むしろ、そうした営みを続けて来ざるを得なかった人類を愛おしくさえ思っていそうです。

 ただ、田所博士の人間に対する愛おしさは、田所博士の半径10m以内の人に対しては発揮されないというだけなんですね。


 原作の田所博士も、避難プロジェクトのD計画を人々に知らせるためにわざと暴行事件を起こし、表舞台から去りました。

 日本が沈む最後の最後に政界の黒幕の渡老人と会話する部分で再登場し、「私は日本列島を、そこに住む日本人も含めて愛していた。女性に対する愛のように。惚れていたと言ってもかまわない」と告白します。もう既に渡老人は避難を勧める側近に対して自身の避難を断っており一人屋敷に残っていたのです。そこに田所博士が現れて、二人でする会話の中でそう言いました。そして「惚れた女が亡くなるのなら、一緒に死んでやりたい」と言って二人は日本と運命を共にします。

 再度読み返した訳ではない(今、手元にないんで)ので、正確なセリフではありませんが、だいたいこういった会話だったと思います。


 溢れんばかりの日本への愛を持ち、だが不器用で直線的な天才。

 この人物造型はこの物語の根幹で、だからこそ唯一同名で同じ役どころなのでしょう。


 いやー、今後も楽しみです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る