第13話 先で

「ふぁぁ〜〜」

「おい、あくびしてないでちゃんと見張ってろ。」

「うるせぇ、こっちはこんな宴の日に見張り役に当たった上に眠いんだよ。」


二人は聞こえてくる大きな笑い声に背を向けてとある地下の一室の、見張り役を任されていた。


「くじ引きだからしょうがないさ。ま、あとちょっとで終わるんだもう少しの辛抱な。」

「でもよ、こんな地下に誰が来るってんだよ。なぁ、中から酒持ってきて二人で飲まね?」

「いいけどお頭からどなされても知らないぞ?」

「それは、やだな。お頭めちゃくちゃ怖いしな。」


二人は他愛のない会話に花を咲かせ宴の終わりを待つばかりであった。


「そこで俺は言ってやったんだよ命欲しくば、金目の物を出せ!ってな。」

「………」

「おい、反応悪いな、聞いてんのか?」


先ほどまで自分と笑いながら話していた相方に声を掛ける。しかし、魂が抜けたように立っている相方は全く反応を示さず、まるでマネキンに話しかけているような感覚を感じる。


「おい、起きろ。まだ見張り終わってないぞ。」


そう話しかけながら肩にふれようとする。だがその手が肩にかかることは無かった。


「あれ?」


男の手は元々そこに無かったかのように手首先からきれいになくなっていた。そしてその状態が異常だと男が認識した途端大量の血が手首の断面から大量に流れてくる。男は自分の腕を必死に握りしめて、流れてくる血を止めようとするが、滝のように溢れ出る血の量は本人の意思とは関係なく増えていく。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、て、手が、俺の手が……」


大人が無様にも尻もちをつけて喚いてる姿はまるで子供が親に欲しいものを買ってもらえず駄々をこねているようだった。男がところ構わず転がり回っていると何かにぶつかってしまう。ぶつかったものを見ようと上を見上げると小さな女の子が立っていた。腰まで伸びている金色の髪に真っ白な肌そして聖職者と思われる白を基調にした服。男はその服を見かけた途端叫び出した。


「あ、あんた聖職者だろ?見れば分かる。なぁお願いだ俺の手、直してくれないか?も、もちろんタダとは言わない欲しいだけの金をくれてやる。だから!」


男は大人の矜持など捨て必死に小さな女の子に汚い笑顔で縋りよる。


「大の大人が手がなくなったくらいでそんなにもよく叫べますね。逆に賞賛に値すると思います。ま、そんなに痛いのなら無くしてあげます。ほら、立って下さい。」


女の子から返ってきた言葉は予想したものとは遥かにかけ離れたものだったが、男に希望を持たせるには十分だった。


「あ、ありがとう恩にきるよ。」

「はい、十分に感謝して下さいね?あの世で。」

「え?」


これ以上考えることができなかった。何故なら考える体がこの世に無かったからだ。男の存在すらなかったように、その場にはもう何もない。


「ま、嘘はついてないよね。"死"を迎えれたことによってその手の痛みが無くなったんだから。」


女の子は言い訳をするように喋りながら男の遺体が残っていたらそこにあったであろう場所を見ていた。


「まずそもそもここにいるのが悪いのよ主様の前を遮ろうなんて愚かすぎるわ。ま、人間にしてはきれいに消えてくれて良かった。暴れられたら手が狂うから困るもん。はぁ、主様まだかなぁ。」


そう吐息を吐くように呟きながら愚痴をはく。我が主の進む道を遮ろうとするもの全て排除しその結果を自らが報告し誉めてもらうために歩みを進める。金色の鱗を引き摺りながら。


「あら、尻尾がまた出てるわ、いけないけない私達の存在は知られちゃまずいって主様おっしゃてたし気をつけなきゃ。」




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