あめふり

縞々なふ太

第1話

「あっめあっめふっれふっれかあさんが……。」

ぴっちぴっち、窓の外で雨が降っている。

昔から、雨の匂いには敏感だった。つぅっと鼻に吸い込む匂いの運ぶ知らせがなんだか不思議で面白かった。__今はそうは思わないけど。

雨の日は捜し物の日。外に出れないから、外に出なくてもいいから。本棚の中に広がる世界は、子供の頃から私にとっては現実より数倍価値があって楽しい場所だった。特に好きな近代文学のコーナーには、萩原朔太郎、中原中也、室生犀星、徳田秋聲、芥川龍之介なんかの有名どころが並んでいて、そのどれもが表紙をよれさせて飛び出しそうにそわそわしている。

捜し物っていうのは、……探せば見つかるものって意味じゃないと思う。探して見つかるって確証のあるものなんてこの世にないから。捜し物って言うのは、探しても探しても見つからないもの。でも見つけたいと思うもの。

つまり、形なんてないもの。心のなかにあるようで、未だ自分も知らないもの。あるようでないもの。ないようであるもの。

雨は、”将来の夢”ってものに似ている。ある日突然降りかかる災難。でもちょっと気を向ければ匂いが教えてくれるもの。でも、避けられはしないもの。傘をさしたって、靴をびしょびしょ濡らすもの。

残酷だ、予感させるくせに抵抗させないのは。

かつてはそれがさがしものだった。今は違う?今は違う。私には叶えたい夢がある。

でも私は捜し物をする。なんで?それが私の望むものじゃなかったから。なんで?叶わないかもしれないから。叶えるのが難しいから。なんで?……私には、才能がないもの。

やりたいことって難しい。いつだって不安と隣り合わせ。やりたいってことは、やれないってことと紙一重だった。知らなかった。そんなこと、知りたくなかった。夢に夢を見ていたんだと思う。実際手にしたら、重くて独りじゃ持ちきれない。誰かに持ってもらう訳にも、いかないのに。

本の中に未だ探し物をしている。私どこにいる?何も分からない。馬鹿みたい。もうやめたい。もうやめたい。

残酷だ、……もう妥協なんてできないって、いうことは。


結局探し物は一つだけなんです。これは私だから言えるんです。

やりたいって思えることがある。それって幸せじゃない。雨みたいなもの。でも、雨って災難なだけじゃない。

歌詞によくある雨の情景には、2種類ある。

あめのなか、1人立ちつくす姿。

あめのなか、傘も持たずにはしゃぎ回って笑い合う姿。

虚構の世界で遊んでいたいんです。叶わない夢でも見ていたいの。だって私、まだ人生16年生なんだもの。

今までずっと悩んでいた。やっと決めて、手に取ったのは、「侏儒の言葉」。


曰く、”運命は偶然よりも必然である。

「運命は性格の中にある」と云う言葉は決して等閑に産まれたものではない。”


_曰く、”成すことは必しも困難ではない。が、欲することは常に困難である。少なくとも成すに足ることを欲するのは。”


「ピッチピッチチャップチャップランランラン……。」

雨が降る。雨が降る。どこかでカエルが泣いている。

雨は、止まなくていい。

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あめふり 縞々なふ太 @nafuta

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