初心者さん襲来!§3 突撃

「そこの若人わこうど諸君!そうそう君たちだよ!」


 冒険者ギルドを出ると大広場です。

 プルチーノとシャオチーのふたりに近づくちょび髭の男。

 いかにも怪しい雰囲気醸し出してます。


「なんすか?」


「君たち、冒険者の新人さんだね」


「はあまあ」


「そうっすけど…なんかようっすか?」


「中々腕が立ちそうだねえ、おじさん感心しちゃうなあ」


「え?そうっすか?俺なんてまだまだっすよ」


「そうかい?そんな風には見えないが…どこぞの有名な剣士さまのお弟子さんにも見えるなあ」


「えへへ!そんなに褒めないで下さいよう」

 まんざらでもないプルチーノ。


「ちょっとちょっと!なんか怪しくない?」

 小声のシャオチー。


「そちらのお嬢さんも中々のべっぴんさんだね」


「え!そうかなあ!」

 満面の笑顔。


「ところで君たち。冒険者保険って知ってるかい?」


「冒険者保険?」


「そうそう。冒険者ってそれなりに危険だよね?

 ベテランでも逝く時は逝く。怪我も多い」


「「……」」


「でも冒険者保険があれば安心!

 怪我も装備の紛失・破損も全て保険でカバー!

 どう?一口入らない?」


「でもお高いんでしょ?」

「だよなあ」


「大丈夫!大丈夫!1日あたり珈琲一杯分のお金しかかからないから!」


「そんなもん不要だ」

 そこへ現れるガランディール。

 警備隊の偉い人の所から戻ってきた様です。


「「おやっさん!」」


「商売の邪魔せんでくだせえ!ガランの旦那!」


「保険なら依頼の手数料から天引きされてるぞ。そういう書類仕事もギルドの業務だからな」


「そうなんっすか」


「そもそもチョビヒゲよう。お前、営業許可持ってんのか?大広場の許可証高いぞ。つか、ぽん引きもアウトだって知ってたか?」


「ぐぬぬ、それは」


「それと保険会社の登記。認可。その他もろもろの手続き。あるか?」


「ぐぅ」


 そこへ警ら中の警備隊。街の衛兵さんです。


「ガランディールさん、何かありましたか!?」


「それじゃあ、旦那方、あっしはこの辺で」

 ちょび髭の怪しい男はそそくさと逃げ出しました。


「あいつ、またやってたぞ。保険詐欺」


「なるほど。監察局の方へ報告を入れておきます」


「おう、よろしく頼む」


 窓越しに大広場を眺めてると、そんな光景が目につきました。

 大丈夫ですかねえ、あのお二人。

 ガランディールさんが来なかったら、少し危なかったかも。


 ベテランさんや凄腕さんに師事出来れば良いのですけど、実力の違いすぎるメンバーと組むのを避ける方は多いです。


 生存率下がりますから。


 命かかってます。

 善意だけではなんとかなりません。

 この辺はシビアです。


 ひな鳥たちはガランディールさんと話を続けています。

 ぺこぺこと頭を下げるお二人。

 やがて初心者さんたちはどこかへ去って行きました。


「ソフィアちゃん、あの二人の面倒見てくれてありがとな。お偉いさんとは話をつけてきた」


「そうですかー。無事解決して良かったですねー」


「で、初仕事は下水道だって?」


「ええ、そうなります。市の衛生局には連絡済みです」


「それは…なんだ…がんばれ」


「わたしに言わずに本人たちに言ってあげて下さいね」


 下水道ですからねー。

 大ネズミですからねー。

 他にも何か出そうですねー。

 ………

 頑張って下さい!


「それでな今晩アイツらに晩飯ご馳走してやる事になってな…ソフィアちゃんも来るかい?」


「わたしですか?なんでです?」


「アイツら、失礼な事言ったの気にしててな。謝りたいらしい」


 失礼な事?

 意地悪呼ばわりやツンデレ呼ばわりした事でしょうか?

 意地悪な訳ないでしょう。

 ツンデレな訳ないでしょう。

 でも、あの二人の事は気になりますね。

 心配になります。

 初心者さんの生存率…


「もちろん、ガランディールさんのおごりですよね?」


 ちょっと意地悪な微笑みを浮かべるわたし。

 …ちょっとだけですからね!


「お、おう」


「んじゃ、仕事上がったら来てくれ。北門の『オリーブの輝き亭』な」


「はーい」


「それとアイツらの世話あるから、早上がり出してるんで、もう上がる」


「はーい、お疲れ様でーす」


 日も落ち始めます。

 大きなノッポの振り子時計の鴉が5度鳴きます。

 この振り子時計、鶏だったり鳩だったり鴉だったりよく変わるんですよ。魔法の品マジックアイテムなので。

 上がりの時間です。遅出組と交替します。


 北門広場の『オリーブの輝き亭』ですね。

 この時間、駅馬車は混み合ってるので、客馬車を捕まえましょう。贅沢ですか?そうですか。

 冒険者ギルドは南側の港湾部に近いので、北門広場までは少し距離があります。

 剥き出しの地面の車道を客馬車が走ります。


 北門広場は賑やかでした。

 城門の閉じるまでまだ時間があります。

 近隣の村落や衛生都市との行き来も多いです。

 城内にいくつもある市場の人々が帰路へ着き、付近の農場の労働者の一部が城内へ戻ってきます。

 客馬車の支払いを済ませ、目的地に向かいます。


 『オリーブの輝き亭』、見えてきました。

 宿屋兼酒場兼食堂という、この国ではよく見られるタイプのお店です。

 村落部だと更に雑貨屋などとの兼業になる事もあります。

 オープンテラスがお客さんで賑わっていますねー。


 ガランディールさんたちどこでしょう?

 せっかく奢ってもらえるのです。

 急ぎませんと!


 ん?あれはサラディオールさんですね。

 そう言えば依頼人さんと一緒に此方へ逗留と伺っていましたね。

 依頼人さんたちとご一緒の様です。


 ドワーフの戦士風の御人。存じ上げない方です。

 それとノームのお爺ちゃん。知ってる方ですねー。

 え?ちょっと待ってください。

 あの美人誰ですか?

 ぬばたま色ダークヘアの長い髪、紫色の瞳、上エルフの女性でした。


 動悸、息切れ、高鳴る心臓。

 運動しましたからね!歩きましたし!

 ガランディールさんたち探さないと…


 オープンテラスに入り、ゆっくりと歩きます。


 気づけば、見知った顔のいる4名さま御一行の元へ来ていました。


「みなさんごきげんよう。冒険者ギルドの受付さんです」

 満面の笑みのわたし。


「ごきげんよう、ソフィアさん。依頼の件、何か進展がありましたか?」

 サラディオールさんが尋ねます。

 笑顔が、とても眩しく見えました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る