初心者さん襲来!§2 襲来
「だーかーらー!ゴブリン退治がしたいんですって!分かるでしょ!?冒険者ビギナーの最初の冒険といったらゴブリン退治!」
「お姉さん、お願いします。故郷の村からの旅費で、お金ほとんど残ってないんです!」
さっきから騒いでいるこの二人。
冒険者登録もしてない初心者さん。
ガランディールさんの知人のお子さんです。
外ハネチャラ男ヘアで茶髪の男の子が、
プルチーノさん/ファイターで、
ポニーテールで茶髪の女の子が、
シャオチーさん/スカウトだそうです。
歳は16〜7と言ったところでしょうか。
この国では16で成人なので一応大人なんですが…
いきなりギルドに来て、依頼をくれって…
どこの馬の骨とも知れぬ方々に依頼など出来ません。信用問題に関わります。
それに、このマルサルドール市、先程も説明しましたが大都市なんですよね。
近場でゴブリン退治なんてありません。
あっても大規模な軍事行動になる事案です。
初心者さんには無理ゲーです。
「えっとですねぇ…ですから、まず冒険者登録を…」
「しますとも!」
「ではまず戸籍謄本の写しか身分を証明出来る何かを」
「へ?何すかそれ?」
ふっ!これだからきょうびの若者は…
「地元の領主さまとか村の長老さまとかに貰わなかったかなぁ?」
にっこりと微笑むわたし。
ひきつってますけどね!
不安げに、ひそひそと相談する少年少女。
「身分証って何かな?」
「あれじゃない?村長に貰った通行手形」
相談を終えた二人は、恐る恐る、2枚の木札を取り出す。
「あーそれですね。じゃあ確認しますよー」
お隣のロザリア州のエヴァント村ですか。
それから、ギルド謹製の
え?コピー機?パソコン?なんですか?それ。
そんなものある訳ないじゃないですか。
魔法文明の発達した異世界なんですから。
あ、でも、カメラならノームの国とかにあるかもです。
爆発落ちが期待出来ますけどね。
「確認しました」
記録もしましたけどね。
魔法って便利!
なんてご都合主義!
「それじゃあ、お次はこちらの石板に右手か左手を置いて下さい。魂魄登録します」
「コンパ…何?」
「タマシイを登録します」
「うほお!」
少年の方、喜んでますね。
まあ、珍しい魔法技術ですからね。
え?そんな便利な事出来るなら最初の書類の件は要らないだろう、ですって?
それがですね。法令で定められているんですよ。
最近は、いろいろ大変なんです。
登録完了です。
「登録おめでとうございます。それから、こちらはギルド謹製初心者さん向けガイドブックです。認識票は後日発行されます」
と言って赤い箱に入ったガイドブックをお二人に進呈します。
なんで赤い箱なんでしょうね?
駆け出し冒険者のことも赤箱級って呼びますし。
不思議です。
「じゃあ早速ゴブリン退治を!」
少年の中では、ゴブリン大人気ですねー。
ゴブリン好きの少年。
やだ、ちょっと怖い。
現実を教えて差し上げないと。
「では少々お待ち下さい」
席を離れ、書類棚へ向かいます。
依頼リスト・討伐指定リスト・ダンジョン情報・秘境情報など様々な書類を漁ります。
幾つか見繕ってカウンターへ戻ります。
「ゴブリン退治ありましたけど…」
「それです!その依頼受けます!」
「お二人には無理ですね」
「へ?なんでですか?どうして意地悪するんですか?」
「お姉さん、ツンデレなんて今時…」
この二人…
笑顔を絶やさないわたし。
がんばれ!
「募集人数50人以上。
自前で装備品揃えることの出来る者のみ。
依頼内容、メルカール州に於ける長期的ゴブリン討伐。
傭兵部隊案件ですね。これ」
「そんなぁ」
「やだもう。あたし泣きそう」
泣きたいのはこっちですよ。
「じゃ、じゃあ、猫探しとか犬探しでもいいです!」
「お願いします!」
「は?」
笑顔のわたし。
声は笑ってません。
ドスの効いた「は?」ですよ。
心無しか、二人が怯えてる様に見えるのは気のせいでしょう。
どこでそんな知識つけてくるんでしょうね。
ある訳ないじゃないですか!
猫や犬を探す依頼なんて。
通常は冒険者ギルドで扱う様な案件じゃあないんです。
伝説級の依頼です。
もしあっても、探してから退治しちゃう依頼です。
ライオンとか、サーベルタイガーとか、ダイアウルフとか。
あるいは、探してから捕まえる依頼です。
羽の生えた猫とか、人の顔の犬とか。
万が一、飼い犬・飼い猫探しの依頼あるとします。
どこぞの奇特なお金持ちが依頼を捻じ込むとかですね。
その場合、ベテランさんが犠牲になるオチしか予想出来ません。
コメディーですし。
え?そんなこと言って次回やるつもりだろう、ですって?
そんなこと、わたしに分かる訳ないじゃないですか。
ただの受付さんなんですから!
「駆け出しさんでも引き受け可能な依頼といえば…
これなんてどうでしょう?」
「あるんですか!?」
「やったね!」
「隊商の護衛。主街道外れるルートだと、たまに依頼が来るんですよ」
「それでお願いします」
「あ」
しまった。
「どうかしたの?お姉さん」
「…これ、行き先が、エヴァント村ですねぇ……」
「ぬぉおおおっ!!」
「やぁあもう!」
「隊商の護衛で、故郷に凱旋…とは、いきませんよね?」
悲哀に満ちた空気感ですねー。
どうしましょう。
あとはこれしか。
「もう一つありますけど…」
「まだ、あるんですか!?」
「もうそれでいいです!何でもします!」
女の子が、軽々しく何でもするなんて言っちゃいけませんよー。
「………下水道の大ネズミ退治です」
「へ」
「ひぃっ」
「1匹あたりクロン銀貨1枚。手数料と税が2割ほど引かれますので、手取りはもう少しさがります」
しばしの間。
微妙な空気。
微笑むわたし。
「…それでいいです」
「…お願いします」
「それでは、詳しい説明を。市の担当者が見聞の為に同行することになりますので…」
淡々と説明をするわたし。
死んだ魚の様な虚ろな目の2人。
「…明日の朝、こちらに集合となります。よろしいですか?」
「「…はい。わかりました」」
「ところでお二人さん。本日の宿泊先はお決まりですか?宜しかったらこちらで紹介も出来ますが…」
「あ、それは大丈夫っす。ガランのおっさんのとこにしばらく厄介になる事になってるんで」
さすがナイスミドル。
「そうですか。それでは明日よろしくお願いします」
「「はい」」
無事、お仕事決まって良かったですね!新人さん!
と、安心したのも束の間でした。
再び事件です。
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