消滅した町 §4 雲海にて

 ウォルフガング・シュナイデルは即決した。


 官吏専用のエーテル通信網の貴重な私信枠を用いて、ドトンタ翁からの手紙が届いたのは2週間程前だった。


 かつてオークの軍勢に攻め落とされんとして、突如消え去った町ウリューン。

 ドウォレル王国のドワーフ戦士たちは救援のため急ぎ駆けつけたが、町は…町そのものが消え去ってしまっていた。

 ウォルフガング・シュナイデルは、その援軍の一員だった。


 オークの軍勢と遭遇し勝利した時のカタルシス。

 その後ウリューンの町があった場所にたどり着いた時の喪失感。

 今でも思い出される。


 そのウリューンの町を再調査する計画が持ち上がっていた。

 ドトンタ翁からの手紙は、その調査チームに加わる気はないか、との申し出だった。


 ウォルフガング・シュナイデルは迷わず決断した。

 すぐに返事をしたため、待ち合わせの場所となるマルサルドール市へ向かう手筈を整えた。


 運良くマルサルドール市行きでは、年に数回しか運行しない天の磐船に巡り合った。

 ヒト族の領域〜ラメント州で非常に重要な交易品を入手するための船だ。


 酒!


 大人しか味わってはいけない、至高にして嗜好の存在。


「あれヤバイっすね」


 若いドワーフの空船員がぼやく。


「何事か?」


飛竜ワイバーンですね。天空山脈シエラシエルの群れからはぐれたっぽい。野良ワンダリングが近づいてきてるっす」


 最近のドワーフの若者言葉ときたら…


「その様な輩、我が討ち取って見せようぞ!」


「え?いいんっすか?お客さん」


「甲板にて迎え撃つ!」


 空船員たちが慌ただしく動き回り、甲板にいた乗客たちを避難させる。

 先程の若い空船員が命綱を託す。

 ウォルフガング以外に残ったのはただ1人。

 甲冑プレートメイルに身を包み鉄槌メイスを携えたヒト族の女性。


「勇敢なドワーフの戦士さん。お一人で大丈夫でしょうか?」


「ヒト族のご婦人よ。下がっていなされ」


「まあそう仰らずに」


「ふむ、来るぞ!」


 滑空し、爪を立て、襲いくる飛竜ワイバーン

 一撃を交わし、反撃の一打を加えんとするがかわされる。

 美しい音色で聖歌チャントを奏でる修道騎士クレリックの女性。バフが乗る。


 再び迫り来る飛竜ワイバーンにウォルフガングの矛槍ハルバートの一撃が命中する。

 甲板に降り立つ飛竜ワイバーン

 猛る飛竜ワイバーンの攻撃。頑強な鎧がその打撃を防ぐ。

 ウォルフガングの次の一打。吠える飛竜ワイバーン


 飛竜ワイバーンの反撃。鋭い牙がウォルフガングの体をとらえる。


「ぐぬっ!まだまだ!」


 反撃の一打が飛竜ワイバーンをとらえる。もはや虫の息だ。

 飛竜ワイバーンの尻尾が唸り、ウォルフガングを襲った。


 次の刹那、ウォルフガングの矛槍ハルバート飛竜ワイバーンの身体を差し貫く。


 崩れ落ちる飛竜ワイバーン


「ぐぬぬ」

 崩れ落ちるウォルフガング。風前の灯火。


 騎乗用の品種と違い野生種の飛竜ワイバーンの中にはサソリの様な毒の尾を持つものがいる。


 急ぎ駆け寄るヒト族の女性。

 解毒の奇跡。

 命を取り留めるウォルフガング。


「ご婦人よ、礼を言おう。感謝する」


「どうもいたしまして」


「我はウォルフガング・シュナイデルと申すもの。御名前をお聞かせ願えるか?」


「クラリス・ベントマイムですわ。七乙女修道会の修道騎士クレリックですの。それでシュナイデル様はなにゆえマルサルドール市まで?」


「果たせなかった使命を再び果たす機会を与えられた。友と友の娘と仲間たちのために!」


「まあ!素晴らしい!わたくしもご同行させて頂きませんか?」


 クラリス・ベントマイムは即決した。

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