消滅した町 §3 蟻塚にて

 オーガ、オーガ、オーガ、オーガ、オーガ、オーガ、オーガ、オーガ、オーガ、オーガ、トロル、オーガ、オーガ、オーガ、オーガ、オーガ、オーガ、オーガ、オーガ、オーガ、オーガ、トロル。


 「キリが無いな」


 サラディオール・ウェルファラジオールはうんざりしていた。

 ただひたすら斬る。斬る。斬る。


「うはははは!サラディオールもうバテたのか!?」

「だらしないぞ!野伏卿レンジャーロード!」


 赤髪の蛮族の戦士バーバリアンが、スノッリの子オグムンド。

 そして甲冑に身を包んだ男が、ガラハド・ブルグンド卿。

 この2人が今回の連れだ。


「10体目!お前らは?」


「「6体だ…」」


「ペース配分を考えろ。休むのも戦術だ」


 通称『鬼岩砦おにいわとりで』は、元は巨大な白蟻の蟻塚だったという。

 マルサルドール市に程近いこの蟻塚は、探索し尽くされ、ダンジョンとしては、もう何年も前に終わっていた。

 地元では、解体、観光地化、放置、再利用などいろんな案が喧伝され始めた矢先の事だった。


 濁ったマナと濃ゆく乱れたエーテルの影響で地形と空間が歪み、秘境〜すなわち、より危険な類いのダンジョンとして蘇った。


「して今回の戦術、何か提案があるのか?」

 とブルグンド卿。

 そう来たか。


「…休んだら、進む。見つけたら、斬る」


「うはははは!」

「悪くない戦術だ」


「それと重要なのは、秘境化の原因となった何か突き止める事」


「ぉぅ」

「さすれば外に待機している司祭たちの出番となるや」

「その通り」


 『鬼岩砦おにいわとりで』の外縁には教会から派遣された司祭たちが待機していた。

 修道騎士クレリックとは違い、戦闘訓練を受けてない善良な人々。

 しかし、強力な奇跡は授かっている。

 儀式によって、マナを浄化し、エーテルの奔流を安定化させる事が可能だ。


***************************


 最深部。かつて白蟻の女王が鎮座した空間。

 そこには、古綺麗な出立ちの人々が居座っていた。

 その数3名。

 冷酷な美しさを醸し出す一番長身の女が、恐らく首魁だろうか。

 長柄武器ポールアームで武装した男2人が、かしずく様に控えている。


「なんだあ?ニンゲンかあ?」

 とオグムンド。


 いかにも怪しい3人は聞き慣れぬ言葉でひそひそと言葉を交わし、そして怒りを露わにする。


 地を揺らす様な呻き声と共に彼らは正体を表した。


「オーガメイジか」


「うははは!やりあおうぜ!」


 オグムンドはそう叫ぶと、いち早く女オーガに襲いかかる。

 左右の男が守りに入るが、サラディオールとブルグンド卿がそれぞれ引き受ける。


 わずか3ラウンドで勝敗は決した。

 ともがらの男たちは地に臥し、残すは首魁と思しき女のみ。

 地を揺らす様な叫び。

 その刹那、女オーガの姿が霞の様にぼやけ、霧状に変化へんげする。


 逃げられてしまった。


***************************


 あらかた討伐を終えて地表に戻った頃には、夕暮れ時だった。

 ひたすら数が多いだけだったが、それでも駆け出しには脅威だったろう。


「楽勝だったな!」


「親玉には逃げられたがな」


「全くである!」


「皆さん、お疲れ様でございます」


 司祭たちから治療を受ける。

 修道士の1人がサラディオールに伝言を伝える。


「ウェルファラジオール卿。王都からお客様がお見えです」


「どなたでしょうか?」


「儂じゃよ」

「お久しぶりねー。サラディエル君」


 顔見知りのノームの老人と上エルフの女性。

 同じ『荒野の羊飼い』団に属するドトンタ翁とエレンディエルだった。

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