短編
モブベテラン
このラメント州には遺跡が多い。
遺跡と言っても、古代の魔法文明の都市遺跡とか、更に昔の妖精時代の遺産とかではない。
半世紀ほど前まで続いた暗黒時代の遺跡だ。
廃棄された砦や要塞なんかがそこら中に残っている。
石材を積んで建物を作るのは大変手間のかかる作業だ。場合によっては何十年、いや百年以上かかる事もある。
解体するのも同じく、時間も人手も費用もかかる。
大変な作業だ。
人里離れた遺跡にはゴブリンやオークの様な邪悪な略奪種族が巣を作る事がある。
あるいは
こう言った危険な略奪種族や怪物たちを駆除するのも冒険者の
頂けるお宝があるのなら、もちろんいただく。
しかし、明らかな盗品には手をつけない。
襲われた隊商の商品や付近の村の家財などだ。
大抵は後で問題になる。
悪くすると牢屋へぶち込まれる。
冒険者稼業を生業とする者たちの暗黙の了解だ。
俺たち冒険者は、山賊や盗賊とは違う。
冒険者なんだ。
目的地の廃砦はもうすぐだ。
その砦は、暗黒時代の中期に建てられ、末期に陥落した。
『魔に魅入られし
もちろん『
お約束のゴブリン退治の依頼があった事もある。
襲われた隊商の積荷回収にも懸賞がかかっている。
可能ならこちらも達成したい。
だが、それだけが目的ではない。
この廃砦には、ある噂があった。
『暴君』の残した財宝が隠されている、との噂だ。
眉唾だって?そうかもしれない。
しかし真実だったら?
「ちょっとパブロ、まだ着かないの?」
そう尋ねたのは、ハーフエルフのエルザ。ガキの頃からの友人だ。
昔は姉みたいな存在だったが、今では見た目は俺の方が年上に見える。見た目だけなのだが。
「エルザよ、ぬしは辛抱というもの学んだ方がよいぞ」
この人はキホーテン卿。俺の師匠みたいなお人だ。腕が立つ。頼もしい仲間だ。
「おっさんの言いたい事もわかるがよ。日が登ってるうちに片付けたいぜ。相手は夜行性のゴブリンどもだからな」
少し乱暴な口調のドワーフ女性はマリさん。根は優しい。鍛冶師で金属細工師でもある戦士だ。
「そうねそうね!朝方、突入できる様に野営しちゃいましょうよ!」
このチビっこいお嬢さんはノーム族のノリリンタ・ヘベレケンソン・テクテクッタラさん。
本当はノーム特有のもっと長い名前があるらしいのだが、だれもフルネームを覚えれない。
お嬢さんと言ったが実はパーティーの中で一番年上だ。エルフほどではないが、ノームもドワーフ並みに長寿なのだ。
「よい案ですね。ですがわたくしはリーダーのパブロさんの決定に従います」
この人は、
温厚で自制心のある御仁だ。
俺か?俺の名はパブロ・リーデル。
元傭兵の戦士だ。
今は、冒険者チーム『暁の雷鳴』のリーダーをやらせてもらっている。
「一度、近づいて周囲を偵察してからだ。その後、戻って離れた場所に野営地を確保する」
傭兵時代の経験がこういう時役に立つ。
「戻るってどこまでよ?」
エルザが再び尋ねる。
「2マイルほど前に廃屋があったろ?」
「あんなとこ嫌よ」
「あそこから更に半マイルほどの所に、岩場が入り組んだ場所があったろ。その辺りで探す」
「なるほど妙案じゃな」
間道を進み、雑木林を抜けると、噂の廃砦が見えてきた。
手信号で警戒の合図を送る。
俺たちは周囲の偵察を開始した。
周囲を警戒しつつ、スカウト組が偵察を終える。
「足跡が大きすぎるわ」とエルザ。
「ホブゴブリンか?」
「そこまでは分からないけど、ゴブリンより大柄のヒューマノイドなのは確かよ」
「それにこの動物の毛!なんだろうね!」とノノリンタさん。
周囲の偵察を終えた2人の報告。
ゴブリンだけでは無いとは思っていた。
恐らくはホブゴブリンがいる。
ゴブリンとは同族の大型の奴らだ。
そして動物の毛はダイアウルフだろうか?
茶色っぽい獣臭い毛だ。
周囲には、他に注意すべき要素は見つからなかった。
目視で確認できる範囲では、砦の城門跡や残っている城壁部に見張りの類はなかった。
他にはお約束のトーテム。警告のサインだ。
「どうするのー?」とノノリンタ。
「日が暮れる前に地下への入口を探す」
「では参ろうか」とキホーテン卿。
隊列は、
前衛が、俺とキホーテン卿、
真ん中に、エルザとノノリンタさん、
後衛が、神父さんとマリさんだ。
トーテム付近と城門前で罠がないか確認。
発見されず。
慎重に城門跡を通り過ぎる。
眠りこける緑色のゴブリンが2体。
歩哨役なのだろう。距離が近い。
速やかに駆除する。
これで、日をまたいでの奇襲は無くなった。
今日中に出来るだけ多く片付けるしかない。
どのみち駆除せねばならないのだから。
壁内は崩れ落ちた石材が散乱していた。
かつてはあったであろう木製の建物はとうに朽ち果てている。
今でも残る土台の部分からかつての姿が想像出来なくもない。
地下への入口はさほど苦労せずに見つかった。
石材と土台の陰にひっそりとあった。
再び眠りこけるゴブリンが3体。
赤茶が2体と黄土色が1体だ。
混成部族か。他所から流れて来たのだろう。
目覚める前に手早く駆除。
夜間であれば、こうは上手く運ばない。
「さてどうすんだい?入口は見つかったが、野営地まで戻るのかい?それともやるかい?」
マリさんの提示した2択。
悩ましい。
「多数決だな。すぐ突入が良いと思う者」
キホーテン卿とマリさんが手を挙げた。
「では戻って野営が良いと思う者」
エルザ、ノノリンタさん、神父さんが挙手。
「決まりだな」
「致し方あるまい」
「従うさ」
と、すぐ突の2人。
雑木林の中を引き返し、廃屋まで戻る。
廃屋には、わざとらしく痕跡をつける。
更に引き返し、岩場地帯まで戻った。
間道を離れるとカルデラ質の岩が点在している。
岩に囲まれて、周囲を見渡しやすい位置を見つけ野営地に決めた。
煙のたつ火は使わず、食事は
ノノリンタさんが幻術でカモフラージュの岩場を作る。
エルザが、
神父さんが、
念のためアンデッドを警戒しての処置だ。
見張りは、俺とキホーテン卿とマリさんが交代で受け持つ。
交代の時間が訪れキホーテン卿が俺を起こした。
その時だった。
闇夜にはしゃぐ人ならぬ者どもの声。
獣臭さと共に現すその姿を月明かりが照らす。
人よりも頭ひとつ以上大きな体躯。
不潔な毛に覆われている。
ゴブリンの様に尖った耳。
バグベアだった。
ゴブリンとは同族の、しかし遥かに力強く、しかもすばしっこい厄介な怪物だった。
しかも数が多い。10体以上いる。
奴らは一体のゴブリンと一緒に、無邪気にはしゃいでいる。
当のゴブリンは大変嫌がっている様だ。
非常に幸いな事に、こちらには「まだ」気付いていない様子だ。
急いで寝ている仲間を起こす。
人差し指を口にかざす手信号で、音を立てない様に促す。
今やるか?今はやり過ごすか?
どの道やらねばならない。
今やることに決めた。
エルザが呪文を詠唱し始める。
バグベアたちも気付くが、幻術のおかげで、こちらの場所を「まだ」把握出来ていない。
遊びのために固まっていたのもあり、一気に半分以上、駆除出来た。
前衛は、俺とキホーテン卿とマリさん。
エルザは、弓に持ち替える。
神父さんは、
ノノリンタさんは待機だ。
先制で大打撃を与えたのが幸いして、1ターンかからずに残党を駆除出来た。
「ゴブリンじゃ無かったのかよ!」と憤るマリさん。
「バグベアもゴブリンの親戚なのよー」となだめるノノリンタさん。
「はてさてどうしますか」と神父さん。
どうする。
営巣地に巣食う数がこれより少ないとは思えない。
それにゴブリンたち。1匹見かけたら、5匹はいるとの諺もある。
情報が間違っていたのか?それとも情報が古くなってしまったのか?
ゴブリンだけならまだいい。
しかしバグベアは不味い。力が強い上、動きが素早い。
今回はこちらが奇襲に成功したが、次は奴らの根城へ乗り込むことになる。
「撤退だ。街へ戻って情報を提供・精査する」
討伐依頼で、情報に誤りがあった場合、失敗扱いにはならない事が多い。
可能な限り正確な情報を共有するのも生き残る戦略だ。
「英断です」
キホーテン卿とマリさんが少々不満そうだったが、神父さんが労ってくれた。
俺たちは、早々と帰路に着いた。
それにしても、ガランディールのおっさん、いい加減な仕事しやがって!
帰ったらとっちめてやる。
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