第4章
消滅した町 §1 プロローグ
まぶたを閉じれば、今でも思い出す。
深い霧の中、母に連れられて、町を脱出した時の事を。
町に残る決意をした父の悲壮な笑顔の事を。
暗黒時代。
『名も無き魔神王』の顕現を発端に始まったその暗い時代。
魔神王の
生き残った町ウリューン。
ウンブラ河とウリューン河とが合流する地点に存在した。
暗黒時代の末期までは、確かに存在したのだ。
魔神王の継承者を自称した異形の者ども。
『魔に魅入られし
混乱に乗じてオークを主体とする軍勢が、火事場泥棒の如く、ウリューンの町に迫りつつあった。
救援の為、急ぎ駆けつけるドウォレル王国のドワーフたち。
妻子を逃し、町に残って、戦う決意をする男たち。
迫る闇の軍勢。
しかし援軍は間に合わなかった。
町は消滅した。
破壊されたのではない。
町が消滅したのだった。
消滅した町ウリューン。
数年後、最後の『
ようやく長かった暗黒時代が終わったのだ。
その後、脱出組の幾人かが、生き残りがいないか探したが、痕跡は見つからなかったという。
帰ってきた彼らはこう言う。
「町が跡形も無く消えていた」と。
別の者たちはこう言う。
「地下都市を作り逃れたのに違いない。かの偉大なエルメタリク市の様に」
また別の者たちはこうも言う。
「王都エクセルシオールに浮かぶ数々の浮遊城の様に、天空へ逃れたのだ」
消滅した町ウリューンの行方は未だ判明していない。
暗黒時代が終わっておよそ半世紀が過ぎ去った。
「お父さん…」
栗毛色の髪、すらりとした長身の上エルフの娘。
エレンディエル・ディングルン・タナンサは、思い出していた。
町に残る決意をした父の悲壮な笑顔の事を。
深い霧の中、母に連れられて、町を脱出した時の事を。
そして、瞬く間に老いるヒト族の友人たちの苦悩を。
逝く前に生き別れの家族に一目会いたい。
そんな儚い望みに、彼女の心は打ち震えた。
彼女は決意した。
何としてもウリューンの町に残った人々の行方を探す事を。
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