泉の水精 §4 「あなたの事ですよ」
特務課の後輩ブリジッタさん。
赤髪で眼鏡で巨乳というのが彼女の設定なんです。
…なんですが……なんですかね?これ。
動く水の彫像みたいなナマモノ。
まじまじと観察を続けます。
「………」
「チョットナンデファマッテルンデスカ。ナンカヒッテクダサイ」
ナマモノになってるせいか、上手く発音出来ない様ですねー。
ちょっとなんで黙ってるんですか、なんか言って下さい、
って言ってるみたいですね。聴き取り大変!
「エレメンタル化を解除して、早く実体に戻って下さいな」
「ジュモンノヘイショウファフマクヒカナクテ」
呪文の詠唱が上手くいかなくて、でしょうか。
なるほど、
仕方ないですね〜。
「わたしが詠唱しますので、抵抗しないで下さいね」
「ファカリマシタ!」
エレメンタル化の術、積んでて良かったです。
水のエレメンタル異常という事なので、念のため積んでいたんですけど、役立ちました。
水の彫像が生身の人間の姿へ変わります。
「助かったっす!先輩!」
「それで?何か言うこと忘れてませんか?」
微笑むわたし。
怯えるブリジッタさん。
あれ?なんで怯えるんです?不思議ですね。
「ああ!すみませんでした!
この度は誠にありがとうございました…っす」
土下座で感謝されちゃいました。
事情を伺いたかったんですけど。
「それで、あなたは何をしてらっしゃったんです?
わたしはエレメンタル異常の調査中だったんですが…」
「それがですねー!聞いてくださいよ!先輩!」
「聞きましょう」
「水のエレメンタルの領界のひとつ、アクェンタ・セレースは知ってるっすか?
知ってたっすか。
そうです。
内務省預かりで工房省、外務省、聖務連絡院の合同で使節団が送られる事になったんです。
目的?知らないっすよ。
じゃなかった…守秘義務があるから、たとえ先輩でも話せないっすよ!
うちも使節団の随行員として同行する事になったっすよ。
褒めて下さい!褒めると伸びる子なんです。
褒めない?なんでですか!?
いいから早く話せ?
わかりましたよもう。
うちも随行員としていろんな雑務を仰せつかったっすよ。
パシリじゃないですって。断じて違いますってば。
それで水のジン族のお姫さんとお友だちになったっすよ。すごいでしょ。
買い物代わりに行ってあげたり、水シロアリ退治してあげたり、お着替え手伝ったり…
もろパシリですって?違いますよ。お友だちなんですって。
いろいろ水の中を動き回るのでエレメンタル化の術使う事にしたんです。
実体より動きやすかったっす。
言葉はどうしたのかって?
知ってるでしょ、先輩。
お姫さんとクラゲ狩りに行ったんですよ。クラゲっす。
そしたら
滅多に発生しないだろって?
ホントっす。発生したんだから仕方ないっす。
お姫さん逃がせたんっすけど、うちは巻き込まれてしまったんです。
それでこっちに戻ってきたんです。
分かったっすか?先輩。
ってその水晶なんですか?
全部、記録した?
送る?どこへ?
上司っすか?
え?ちょま!」
あらかじめ指定した地点に、物品・書類などを転送する魔法です。
それにしても
厄介ですね。
普通はエレメンタル界本体と繋がるものなんですけど。
エレメンタルで満たされているからでしょうか。
一時的な現象なら良いんですけどね。
恒久化すると、この辺り一帯の地形変わっちゃいます。
恒久化しないとしても、
新たな『ダンジョン』出現です。
どちらも避けないといけません。
先程立ち去った少年でした。
「お姉さんたち、本物の泉の
困りましたね。見つかっちゃいました。
「いいえ、わたしは魔法使いですよ」
嘘ではありません。
「うおおお!」
魔法使いなんて珍しく無いでしょうに。
喜んでますね。
男の子の興味のツボが分かりません。
「泉の
何ですか?!そんな設定、わたしにはありませんよ。
「ところで、君はどうしてここへ戻って来たのかな」
「あ、それは…忘れ物しちゃって、そこの火口箱とかです」
『音だけ爆竹』の時、使ったんですね。
あれですかー。
「そうですか。ではお早くお帰りなさいな。
あ、それと伝言を頼みます」
「何でございましょうか。大魔法使いさま」
「村の教会の神父さんに話して下さい。
こちらでのお祈りを欠かさない様に、と」
教会の祈りは、魔法や幽界やエレメンタルの不安定さを整えて安定させる奇跡ともなります。
アンデッドを退散させるのも奇跡です。
魔法使いには出来ない事です。
「かしこまりました!」
ベンチに置かれた火口箱と灰箱を回収する少年。
何度もお辞儀をしながら、村へ帰って行きました。
「泉の
「あなたの事ですよ」
「???」
「今日は撤収しますよ。あなたはどうします?」
「ここから戻るのは危なそうなので、先輩ついて行くっす」
「そうですねー」
各々、
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二人が去って、日が落ちました。
溜め池が波打ち、やがて水柱が立ちます。
水柱から水飛沫が煙の様に立ち登ります。
キュポンというオノマトペともに、煙の様な水飛沫が固まり、人の姿になりました。
動く水の彫像では無く、生身の人の姿です。
宙に浮いています。
ターバンを被り、東南海のソラールやアシュラム風の服装をした若い女性。
ヒトの姿をしていますが、ヒトでは無い様です。
「ブリジッタちゃん。どこ行ったの?」
月夜にフクロウの鳴く声が響いていました。
EOF
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