泉の水精 §3 「何やってるんですか?」

 はいはーい!

 わたしです。わたし。

 驚きましたか?


 ソフィア・リンデル・フェレンディルですよ!


 誰だアンタ?ですって?


 普段は冒険者ギルドの受付さんやってます!

 今日はもう一つのお仕事、内務省直轄『王の手』として参りました。


 『王の手』って何?


 よくぞ聞いてくださいました。


 高度に発達した魔法文明には、魔法に関する事案を解決する専門家集団がいたりいなかったりします。


 この『五族連合』の事実上の盟主である『ウェラン王国連合』にもあるんです。


 内務省直轄の『王の手』なのです!

 わたしは出向組なんですけどね。


 いきなり世界観変わっちゃうだろ!?ですって。


 魔法官僚モノですよ。割とあるある設定ですね。


 ちなみに直轄というのは、この国では、省の下には局があって、その下に実務、というのが通例なんです。


 それではお話進めちゃいましょう!


 王立地理院で、エヴァント村近辺のエレメンタル異常が検出されたのは三日前の事。

 水のエレメンタルの異常変動でした。


 情報はすぐに共有され、特務課にも報告が回ってきました。


 近場ですぐに動ける『魔法事案捜査官(仮)』は、わたし一人だったので、お鉢が回ってきたんですよ。

 大変ですねー。


 転移装置テレポーターの使用許可の書類を提出して、近場の都市コムジオール市まで移動します。

 ちなみに今日利用したのは扉型です。

 陣型とかいろいろあるんですよ。


 ここからは客馬車を利用しましょう。

 御者のおじさんの話面白かったです。

 でも黒犬って何でしょうね?

 野犬ですか?


 お話好きの知人の邸宅を過ぎると、もうすぐエヴァント村です。


 鳥使いの村とも呼ばれます。

 地域振興!村おこし!万歳!


 村で聞き込みをします。

 村の女の子が、里山の湧水付近で泉の水精ナイアドを見た、との情報が手に入りました。

 林道が入り組んでいるので、地元民以外は迷いやすいとも聞きました。ただし、遠くは無い、と。


 迷うのはちょっと面倒かもです。


 里山に入った所で、触媒を取り出し、飛翔フライの術を発動します。

 空から俯瞰して探せば、迷わないでしょう。


 聞いていた方角と距離からすると、この辺りでしょうか?


 ありました。


 おや?誰かいます。子どもが2人。

 見つかると調査しにくくなります。

 困りましたね。


 雑木林の中から野鳩の群れがはばたきます。

 痛い痛い。突かないでください。


 姿消しインヴィジブルの術で姿を消してから、降りてみましょう。

 まだ気づかれてない様です。


 何してるんでしょうね。子どもたち。

 男の方が、お兄さんなのかな。

 女の子の方が、例の目撃者でしょうか?


 林床の小枝を踏んでしまいました。

 森の愉快な動物たちが慌てふためきます。


 気付かれそう。マズいですねー。


 今のうちに手を打ちましょう。

 幽体化イセリアルネスの術で、現世うつしよと重なり合う世界、『幽界の境目イセリアルバウンダリー』に移動しますよ。


 今日はセピア色ですか。そうですか。

 おや、幽界の濃度が上がっています。

 不安定にもなっている様ですね。

 幽界の霧が濃ゆいです。


 男の子の方が背負い袋バックパックから「何か」を取り出して、「何か」を始めていますね。


 こっちに駆け寄ってきます。

 何か投げてきました。

 『音だけ爆竹』です!


 でも、大丈夫。

 『幽界の境目イセリアルバウンダリー』にいれば、通常は、現世と干渉する事がありません。

 こちら側の存在を察知する事も、通常は、出来ません。


 誰ですか?悪い事考えてるの。

 そんなに上手くはいかないのですよ。


 まず幽界側の生き物には干渉されます。

 バジリスクとかコカトリスとかいたら最悪です。

 石化!ですからね。


 それに邪悪な存在は邪悪な者に引き寄せされる傾向があります。

 オチが見え見えです。


 幽界の深みにハマって現世に戻れなくなる事もあります。気を付けましょう。


 感知系の術を幾つか使った後、里山の湧水に近づいてみましょうか。

 幽界側で、邪悪な気配や危険は感知されません。

 里山の湧水と重なり合う辺りには、うっすらと魔力が感じられます。


 水のエレメンタルが、渦を巻いています。


 子どもたちも驚いてますね。


 これって、どこかと繋がったやつですか?

 もしそうなら応援呼ばないといけないです。


 何か出て来ましたよ。

 人の姿を形成し始めました。

 泉の水精ナイアドでは無いですね。水だけの身体ですから。

 水のエレメンタル生命体でしょうか?


 子どもたちが驚いてますね。

 そりゃまあ、普通驚きますよね。


 出現は、現世側の様ですね。

 

 女性の姿になりました。

 あれ?見覚えあるなあ。


 女の子が走り去ります。

 男の子は、背負い袋バックパックを持つと、急いで追いかけます。


 子どもたちが去ったのを確認すると、術を解除し、再び現世へ戻ります。


 泉の水精ナイアドの正体、見当つきました。

 知ってる人です。


「何やってるんですか?ブリジッタさん」


「センパーイ、タスケテッス」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る