四ツ辻の黒犬 §5 エピローグ

「うおおおおおおお!なんでだああ!」


 数ターン後、愛馬ロシナンテとキホーテと共に来た道を引き返していた。


 全力で。それはもう全力で。


 カザドールも並走している。


 そして黒犬たち。


 群れる。

 這い寄る。

 吼える。

 飛び掛かる。


 やだもうコイツら。


 器用に馬上から射撃を続けながら、黒犬たちを追い払うカザドール。


「コイツらは、嫌いな匂いのものをだな、消し去ろうと襲いかかる習性があって…」


 早く言ってよぉ!そういう大事なことは!


 シナモンの棒を受け取ろうとしたカザドール。

 それを制止して、自分で持つことを主張したのが間違いだった。


 寡黙な猟師、ニヒルでカッコいいと思うよ。

 助けてくれて、本当にありがとう。

 命の恩人だよ。

 護衛までしてくれて、いいやつだと思う。


 でももう少し話そう。大事なことは特に。


「もうじきだ!玄関口スレッシュホールドに着く」


「うひょぇええええええええええ!」


 周りの樹木が、心無しか歪んで見える。


 強風にあおられ続けた樹木が斜めに生える様に。


 瞬きする一瞬。


 気がつくと街道に戻って来ていた。

 いつの間にか日も暮れている。

 逆走し、四ツ辻へ戻る状態だ。


 カザドールは見当たらない。


「帰れた!?のか?」


 遠吠えが聴こえる。


***************************


 速度を落としつつ、四ツ辻の宿屋前で、Uターンしよう考えていると、かがり火が見えた。


 街道警備隊だ。


 聞けば、野犬の群れが現れて、近くの牧童たちが襲われたのだと言う。

 幸い、牧童たちは無事だったが、子牛が一頭やられてしまったそうだ。


 特に咎められることなく、四ツ辻で方向転換する。


 ようやく、帰路につく。


 城外部の農牧地に我が家はある。


「ただいま。帰ったぞ」


「あなた遅かったのね」


 妻の笑顔。


 眠そうな子どもたち。


 そして駆け寄ってくるコーギー犬。


 我が家の愛犬チャッピーだ。


EOF

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