短編
ノブレス・オブリージュ〜貴族の務め
ラパン男爵は、上クーム郡の先代領主クーム家に仕える武官の一人だった。
女系のクーム子爵家は、代々家臣や遠縁の者から婿を取っていた。
本来ならラパンがその婿となるべきだったのかもしれない。
しかし、彼には妻子がいた。
そこで、クーム家は領主の座を降り、家臣にその座を譲り渡す事にした。
宮廷でのあれやこれやをよそ目に、正規の手続きを済ませて、爵位の授与がいとも簡単に決まった。
僅かな家臣と自らの荘園や私財を除いて、城と領邦の統治機構の全てが、速やかに移譲された。
はれてクーム家は荘園貴族・商業貴族となり、
代わりにラパン家が領邦貴族となった。
他国の、特に北方の新興国の貴族が聞けば、さぞや驚いた事だろう。
自ら特権を捨てるなどなんと愚かな、と。
しかし『五族連合』の事実上の盟主であるこのウェラン王国では違った。
ノブレス・オブリージュ〜貴族の務め。
民を守り、国を守るため、戦においては率先して兵を率いねばならない。
或いは魔法を駆使し、不思議な事象を解決する事が期待される。
王族ですらこの務めを避け得ない。
義務あってのささやかな特権なのだ。
「閣下」
そう呼びかけるのは、先代より仕えるドワーフのトムウェル卿。
「どうした?」
「トポコリーナ村からの請願はいかが致しましょう」
領邦の東の外れにあるその村は、復興村だ。
長く兵役を務めた者たちが、引退し、住み着いている。
メルカールの掃討戦やノルドガルド戦役を共に戦い抜いた戦友たちの住まう村。
トポコリーナ村からの請願。
ゴブリンどもの目撃例が増えて、付近に小規模な営巣がいくつか確認された。
大規模な営巣地が出来つつあるのかもしれない。
手遅れになる前に駆除したいが、人手が足りない。
いくらかの兵を貸してくれ、と。
「今は…自力で凌いでもらうしかあるまい」
「やはりそうなりますか…」
「今は、
西側の下クーム郡との境付近には、以前から
都度、討伐や捕縛がなされていたが、今回は違った。
より大規模な集団が確認されたのだ。
武装し軍閥化しつつある
ドラゴロッソ党を名乗る無法集団だ。
領邦同士の隙間を狙った確信犯でもある。
北西のタラスコン山脈付近の廃砦を拠点にしていると推測される。
「戦費が足りませんな」
「…増税は出来ぬ」
「そうなるとやはり……戦費が足りませんな」
「………」
「………」
「クーム家へ資金援助を求める」
「やはりそうなりますか」
結論は出ていたのだ。決断出来なかったのだ。
しかし男爵は決断した。
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こうして、クームの地ラパン男爵領での数々の戦いが始まる。
しかし、それはまた別のお話。
EOF
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