彼岸 §5 エピローグ

 血と肉と革と鉄の匂いのする戦場で再び俺は目覚めた。


 死屍累々な無残な光景。


 修道騎士クレリックの運営する野戦病院の様だった。

 並べられた簡易寝具。

 その上に、まだ生きている者と、既に息絶えたが蘇生の可能性がある者が、ずらりと寝そべっていた。


「良かったです。無事蘇生されましたね。神の祝福があらんことを」

 見知った顔の修道騎士クレリックだった。

 名前は何だったか。


「神父さんは?少年たちは?戦いはどうなった!?」


 ふと我に帰り訊ねる。


「勝った。しかし圧勝とは言い難い。辛うじての勝利だ」


 そう答えたのは、俺たちの隊の戦闘指揮官だ。


「ノレン隊長!」


「損傷の少ないものから蘇生を頼めたのだが…」


「?!」


「ジョン・スミスはダメだった…」


「?!?」


「敵の敗残兵を追って追撃戦と行きたいところだがこの惨状ではなあ…またしばらくは…いやいい。今は考えないでおこう」


 あの酷い小競り合いスカーミッシュが続く事になる。おそらくそう言いかけたのだろう。


「安静にな」


 ノレン隊長は、そう言うと立ち去り、他の者たちの様子を見に行った。


「それでは私も」


立ち去ろうとする修道騎士クレリックを捕まえる俺。


「感謝する!お礼の言葉などでは言い尽くせない!本当に!」


 蘇生してくれた修道騎士クレリックに何度も礼を言う俺。


「いえいえ、お気になさらず。神の祝福があらんことを」


 俺から解放された修道騎士クレリックが立ち去る。


 蘇生されたとは言え、傷が全て癒えた訳では無い。


 修道騎士クレリックの人数は限られる。

 回復の水薬ヒーリングポーションも足りない。

 自然回復に頼るしかないだろう。


 簡易寝具に身を横たえる俺。


 ふと走馬灯の様なあの出来事を振り返る。


 現世こちらがわの戦いは辛うじて勝てた。

 では幽界あちらがわの戦いは?


 あれは、夢だったのだろうか?


 いや違う。ふと枕元に目をやって確信した。


「あれは現実だ!俺は死んで生き返ったんだ!」


 枕元にはあの少年から受け取った短剣ダガーが置かれていた。


EOF

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