彼岸 §4「何でもありだな」

 次元を越え外つ異界アウタープレーンより来訪する者たち。


 善良な者もいれば邪悪な者もいると言う。


 その中で禍々しき魔界フィーンディッシュレルムズよりの来訪者デーモン。


 現世うつしよの住民とは外見も精神も大きく異なった異形の存在。


 飛来するデーモンたちを迎え撃つべく「荒野の羊飼い団」の面々。


 屈強な戦士たちのうち数名が雄叫びをあげると、姿が変わる。人狼ワーウルフだ。


 ハゲタカの様なデーモン達を迎え撃つ。


 修道騎士クレリックの一人が鼓舞の聖歌チャントを歌うと、味方にバフが積まれる。


 神父さんも祈りを唱え仲間達に様々な奇跡を付与している。

 吟遊詩人バードの優男は、楽器は奏でず剣を抜き、人ならざる敵に立ち向かう。


 6本腕のナーガの様なデーモンと一騎討ちだ。


 他の戦士たちも戦い始める。


 その後方で守られる側になった俺。


 魂たちを守るのは神父さんたち修道騎士クレリックの他は、少年とご老体とふくよかなご婦人。


 神父さんは何か長い祈りを唱え始めている。


 え?ちょっと待って?少しおかしくない?


 修道騎士クレリックはともかく、少年とご老体とご婦人は戦っちゃダメでしょう。


 守られる側でしょう。


 当の三人はと言うと、何やら念じている。祈りや呪文とは違う。何なんだ?一体。


超常の力サイオニクスによる精神障壁よ」


 いつの間にか後衛に戻ってきた魔法使い。


「???」


 訳がわからない俺をよそに説明を続ける。


「奇跡とも魔法とも違う力。奴らも使うことがあるから念のためね」


「………」


「サラ坊、アンタはすでに力使い過ぎてるから無理はダメよ。ああ、お爺ちゃんもおばさまも、もちろん無理はしないでね」


「何でもありだな」


 呆れる。

 そして笑える。

 笑いが込み上げてくる。


 戦場にも笑いが必要だとは俺の持論だった。


 もう何が何やら。


 ふとそこへ不気味な姿のカエルの様なデーモンが一体忍び寄る。


 修道騎士クレリックが祈りを唱え、拘束バインドする。

 魔法使いが呪文を唱え、稲妻ライトニングボルトが放たれる。

 黒焦げのカエルの出来上がりだ。


 どこから湧いたのか小羽根と呼ばれた小型のデーモンが増えている。


「新手ですね」とは神父さんの台詞。


「ちょっと戦士ぃ!」と魔法使いが呼ぶ。


「そろそろ儂等の出番じゃぞ」

「その様ですね」

 意外な2人が名乗りをあげる。


「え?ご老体にご婦人!?なにを!?」


 言うや否やのその刹那、2人の姿がみるみるうちに変わっていく。

 人狼ワーウルフ?いや違う。

 ご老体の身体は大きく筋骨隆々となり、ご婦人の腕は何か鋭い刃物の様に変化した。


 2人は新手に立ち向かっていく。


 魔法使いもこれに続く。後方から援護する形だ。


 修道騎士クレリック達は、|鼓舞の聖歌チャントや祈りを続けている。

 

 残るは俺たち魂と少年たち。


「なあ少年。俺にも何か手伝えることは無いか?武器があれば戦える」


 しばしの間。

 考える少年。


「じゃあこれ。さっき大石のとこで拾った魔法の短剣ダガー+2」


「!!?」


「姉ちゃんに鑑定してもらいました。呪われてません。安心して下さい。幽体でも持てるはずです。魔法の品ですから」


「恩に着る!」


 そう答えると短剣ダガーを受け取った。


「ああ、でも本当にどうしようもなくなるまで前に出ないで下さいね。あいつらの狙いは、お兄さんたち魂なので」


「すまぬ」


 戦いが次の局面に移った。


 あらかたの敵を倒し、残る6本腕のデーモンが断末魔の叫びを上げた。


 空間が裂ける。

 禍々し色の向こう側から新たなデーモンたちが現れた。

 数も多い。


「おぉぃ!マジかよ!?」と戦士の一人。

「また倒すのみぞ」と人狼ワーウルフ


 再び戦いが始まる。疲弊し始めている。


「神父さん!まだなの?」魔法使いがせかす。


 長い祈りを続けいた神父さん。

 祈りの言葉を締め括る。


「繋がりました。依頼人パトロンたちがすぐに駆けつけます」


守護聖人パトロン?」

どういうことだろう。

考える間もなく、それもすぐにわかった。


幽界かくりよの薄暗い空に天の窓が開いた。


天使ディーヴァたちが顕現したのだ。

即座にデーモン達を迎え撃つ。


依頼人パトロンって守護天使パトロン!?」


 もう何でもありだな。


 どうせなら蘇生させてくれても良い。


 婚約者に会いたい。


 せめて一度だけでも。


 あああ!


 そんな望みで心打ち震えていると、突如、俺の身体…というか幽体が輝き始めた。


「?????」


 突如意識が遠のく。


「お兄さん!お兄さん!」


 薄れゆく意識の中で、少年の声が微かに聴こえた。

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