彼岸 §2「ここはどこだ?」

彼岸§ 2「ここはどこだ?」


 目が覚めると、どこかの岸辺に倒れていた。


「ここはどこだ?」


 霧が深く対岸が見えない。川なのか湖なのか判別出来ない。


 立ち上がり辺りを見渡す。


 陸地には草地にまばらな樹木。

 やはり霧のせいで遠くまでは見渡せない。


 他には、対になった立石が何列か続き巨石列柱群メガリスを作っている。

 環状にはなってない。

 まるで通路のようだ。

 遥か太古〜エルフの時代の遺構だ。


 途方にくれる。そしてふと思い出す。


 「戦いはどうなった?!」


 そう。俺は戦場にいたはずだ。

 どれぐらい気を失っていたのだろうか?

 戦友たちはどうなった?

 戦いの行方は?


 混乱した記憶を呼び起こす。


***************************


 中央本隊があえて敵のV字突進を受ける。

 両翼から囲み、挟撃する。

 シンプルな戦術なはずだった。


 俺たちの隊は左翼側の第二陣に組み入れられた。


 本隊とは別枠で個別にはぐれた敵を遊撃するのが役目だった。


 ところが今回の相手は異種族混成。

 いつものヒト・オークの統率された敵とは勝手が違った。


 あまり統率の取れてない敵方は、早々に拡散した。

 そうなると、陣形など意味をなさない。

 序盤から泥試合となってしまったのだ。


 俺たちの隊はみなそれなりに経験を積んでいた。

 そこそこの強さを誇っていた。

 2〜3体であればオーガも屠れる程度の強さだ。


 しかし単独では厳しい。


 押し込まれ劣勢になった味方の別の隊。

 これを援護しようと隊列を伸ばしてしまった。

 失敗だった。


 俺とジョン・スミスは味方の隊に合流できた。

 しかし自分たちの隊からは逸れてしまった。


 抵抗虚しく倒れていく名も知らぬ友軍の兵たち。

 血と肉と革と鉄の匂いが充満する。


 刹那、オーガの一撃でジョン・スミスが倒される。

 声にならぬ叫び。阿鼻叫喚。


 フェイントからの薙ぎ払いで俺の剣がオーガの脇腹を引き裂く。

 トドメには至らない。


 不敵な笑みをうかべる食人の悪鬼。

 振り抜かれた巨大な棍棒をモロに受ける。


 吹き飛ぶ俺。


 宙を舞う。

 そして地に伏す。


***************************


 覚えているのはそこまでだった。


 しかしここはあの戦場では無い。

 見覚えも無い。


 剣は落としてしまったのか、手元に無いことに気づく。


 よぎる不安。


 再び途方に暮れる。


 岸辺に座り込み、幾ばくかの時が過ぎる。


 深いため息。


「一体どうなってるんだ…」


「お兄さん、大丈夫ですか?」


 慌てて振り返ると年端もいかない少年が立っていた。

 後ろには杖をついた老人。

 それにそこそこの年齢のふくよかなご婦人。

 いずれも戦場で見かける類の人々ではない。

 冒険者にも見えない。

 付近の村人だろうか?


「ああ大丈夫だよ。それより君たちはどうしてここへ?」


「一人見つかったようじゃな」


とのたまうご老体。続けて少年。


「お兄さんたちを探してたんだよ」


 少し怪訝に思う。この人たちが不審ということでは無い。

 村人に兵の捜索を任せるまでの状況とは一体?


 勝てたのか?それとも?


「近くで戦いがあるのは聞いているよね?避難はしなかったのかい?」


「近く…では無いと思うけど…戦争なのは知ってるよ」


 どういうことだ!?

 話が噛み合わない。


 よもや奇跡や魔法の力で長い間眠っていたのだろうか?

 いや流石にそれは無いか。無理がある。

 それではあのジョン・スミスの持ちネタのようでは無いか。

 皆を笑わせてくれる異世界から来たという与太話。


「ああ、いたいた。三人ともダメじゃ無い。勝手に先に進んじゃ」


 霧の中、巨石列柱群メガリスの方から人影が近づく。

 黒髪の若い女性だった。

 魔法の小杖ワンドを腰に吊るし、触媒入れコンポーネントボックスのポーチを装備している。

 三角帽子は被っていないが、魔法使いなのだろう。


「あー、姉ちゃん。遅いよ」


「サラ坊、怖くなかった?お漏らししてない?」


「してない!怖くない!」


 本能的に警戒していた緊張を解く。

 少年の家族か同郷なのだろう。


 そこへ、次々と人影が現れる。


 各々に武装した屈強な戦士たち。

 剣と弓を携えたレンジャーたち。

 鎖帷子チェインメイル戦槌メイスで武装した数名の修道騎士クレリックたち。

 金属の品を一切付けていない仙人ドルイド

 剣と琴を携えた吟遊詩人バード

 エルフやドワーフの戦士たち。ノームもいる。


 そうか!『五族連合』の義勇兵たちだ。

 友軍だ!


「我が名はグレン・ラインバルド。

偉大なる父ゾンガーの子。ノルドガルドの戦士。

どなたか私にも武器を貸してもらえぬだろうか?

私も共に戦いたい!」


 しばしの沈黙。

 神妙な空気。


 黒髪の魔法使いの女性が口を開く。


「戦うって言っても…貴方もう死んでるのよ」


 突然の、そしてにわかに信じられない発言。


 もう訳がわからないよ。

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