第6話 暖かい感情
「全く!!バルトルトさんたら!!依頼を蹴って帰ってくるなんてダメなネクロマンサーですね!お金がないと生活できません!いっそ村か町に引っ越しますか?私が働いた方が早いかも?」
と言うとバルトルトは
「……別にそうしたいならすれば良い、お前が一人でな。俺はここで静かに暮らして朽ち果てていけばそれでいい」
と孤独感たっぷりに言うから私は怒る。
「ダメです!そんなダラダラした生活!!生きがいがないからです!!たまには畑の世話をしてみたらどうです!?嫌だとか言ってないで!!」
「何で俺がそんなこと…面倒だ」
「家の中に閉じ籠ったりしてるからです!!」
「む…たまに狩に出てるだろ、キノコを採取したりも」
「ただの食料集めにね!!たまには村へ行きお祭りにでも参加してみたら?楽しい気分になれますよ!」
「人は嫌いだ!!」
と大声を出しビクリとした。たぶん彼の過去からくるものだろう。私と同じように毒を飲まされたり命を狙われてこんなとこで隠れるように暮らしているんだものね。
でも良くない。
「じゃあ、お散歩しましょう?森の中。昼間私と一緒に!狼が出たら貴方が対処してください!」
「そんな面倒な…」
「太陽の光に当たることが重要です!!散歩が嫌なら畑仕事です!」
「なっ…家主は俺だ。なんで家政婦に指図を…」
「なら美味しいご飯食べたくないんですね?」
「ぐっ……」
と言葉に詰まるバルトルト。ようやく少しだけど私とはまともに話してくれるようになっただけマシ。
「…少しだけだからな!」
と睨みながらも靴を履いた。ふふっと笑い私も並んで散歩に行く。
いい天気であり散歩日和だ。
「ほら、バルトルトさん、お花ですよ!」
生えている青くて綺麗なバルトルトの瞳のような色の花を指すと
「は!花なんぞ咲いてるのは一瞬だ。いずれ枯れて落ちる。短い命だ。虚しくなる」
と暗いことばかり言う。
「もー!そんなことないですよ!!確かに枯れますが春がきたらまた起きて綺麗に咲くんです!命はありますよ!!」
と言うとふん!と横を向く。なんて素直じゃないのかしら!
持ってきたお弁当を木の下に敷物を敷いて用意する。
「外で食べると気持ちいいでしょ?」
とバスケットに入れたサンドイッチを渡すとモグモグして
「別に普通だな」
と言う。
「ほら、木陰にいると気持ちいいでしょ?風のサワサワした音とか…」
「そんなもん森にいるんだから当たり前だ。珍しくもない。ふん!」
とやはり素直でない。
「もういいですよ…全くバルトルトさんはわかってないですね」
と言うと
「………」
と暗くなり何も言わなくなった。
「あのね、楽しい話しましょう?」
「何か楽しいことでもあるのか?俺はずっと楽しかった記憶はないんだが」
うう、暗い。
「これから!これからのことを想像しましょう?ほら、美味しいご飯を食べて綺麗に掃除した部屋で過ごして畑の新鮮な野菜を採って…それから…」
「それから?何があるんだ?お前だっていずれ出て行くだろ?なら同じことだ。前と変わらん生活になるだけだからな」
と未来まで暗いことを言う。
「まぁ!何故そんな考えに固執するの?バルトルトさんは!卑屈過ぎる!!綺麗なお嫁さんでも貰えばいいでしょう?」
「は!女なんか嫌いだ!」
「じゃ、じゃあ、男!」
「なんで俺が男と結婚しなきゃならないんだ!バカか!」
「じゃ、じゃあ、両方と!」
「付き合ってられんな…」
「むーーー!一生ここでジメジメとナメクジみたいに生きてくんですか!?貴方は!!全く情けない!私がいないと何にもできないくせに!!」
「最低限はできてるだろ!!」
「それだけじゃないですか!!根性が腐ってる!!」
と私達は外でも喧嘩を始めた。
するとバルトルトが
「おい動くな!」
といきなり言うとソッと後ろの木に手を置いて接近したのでドキリとした!!顔がいいから接近されると…。
しかし私の影を使いグサリと串刺しになった蜘蛛を顔の真横で見て青ざめた。
「きゃっ!!」
思わずバルトルトに抱きついた。
「危なかったな。こいつ猛毒だぞ?ちょっと動いたら死んでたな」
と言うので
「ひいいいいい!」
と怯えるとフルフル震えて
「くくく、ほら見ろ。やはり家の方が安全だ。森は危険だ。呑気にピクニックに行って浮かれてるからだ!くくく!」
と楽しそうに…笑った。
「あ、笑った、バルトルトさん!」
「は?」
ピタリと笑顔が切れて冷めた目になりバッと私から離れた。
「笑ってない」
「いや、笑いましたよ今」
「うるせえ、苦笑いだ。あまりにもお前がバカでドジだからだ!」
「悪口だけは達者ですねぇ」
「ふん!」
と相変わらずだが、何故かそんなやりとりが私にはとても気が楽に思えた。
ついこの前妹に殺されかけ森の狼の餌にされそうになり私は死んだことにされているのに…。
「今度は仕事を取ってくる…この指輪を嵌めていればもう死霊に身体を乗っ取られることもないからな」
とポケットから指輪を渡した。
「……なんだかプロポーズみたいですね」
と言うとブハっと盛大に吹いた。
「どうしてそうなる!?お前頭がおかしい!」
と突っ込まれた。
「ふふふ、私バルトルトさんのお嫁さんになろうかしら。ふふふ」
「あほか!冗談言うな!」
「冗談ですよ、ふふふふ」
と私は笑う。
*
久しぶりにこんなのどかな時間を過ごした。息が詰まるような苦しい思いを一人でずっと抱えていた。
幼い頃から命を狙われたり女に無理矢理のし掛かられたりし怖い思いをした。
女が嫌いになると美少年を送り込まれたりした。恐ろしい。
俺にとって王宮での生活は地獄そのもので誰も信用できなかった。信じていた侍従でさえ。金を握られると俺にあっさり毒を盛ったんだ。
時折この家でも悪夢に晒されていた。
そんな思いをこいつみたいなアホな無害な女といることで一瞬でも忘れただと?
身体にも母に打たれた後とかもある。
傷を見て嫌でも思い出す。
俺は幸せになれない…。継承権争いから降りて逃げ出した。
誰とも関わりたくないと思っていたのに…。この女はズカズカと生活をきちんとしろだのなんだのギャースカ言う。
家に帰りヨハンナは鼻歌を歌いながら料理を作った。今日のも美味い。
「お前…妹に復讐したくないのか?殺されかけて。…なんなら俺が死霊を使って妹を…」
と言うと怖い顔をした。
「やめてくださいそんなこと!!…妹のことはもういいの!!私はそこまで嫌われていたんだもの!!だからもういいの!!」
「だが…」
「貴方だって…そうでしょ?復讐なんてしてないんでしょ?」
「………俺はもう関わりたくなかっただけだ。すっかり疲れてしまったからな」
「私もです。それに関しては同意します。人にはそれぞれ理由があって生きてるんです。生かされてるんです。過去のことは忘れて楽しんだ方が勝ちだと思いませんか?直ぐには消えない傷でも…」
俺はヨハンナの言葉に衝撃を受けた。
「楽しんだ…方が勝ち…」
そんなこと今まで一度も考えたことは無かった…。
俺はスープを飲み干した。
「バルトルトさん?大丈夫ですか?泣くことないてましょ?」
いつの間にか泣いていたようだ。
途端に恥ずかしくなった。
「これは目から汗だ!!」
と訳の分からない釈明をした。
「えー?目から汗なんて出る訳ないじゃないですか!あはは!」
と笑うから
「うるせえうるせえ!!バカ背高女め!!」
と言うとブーと膨れた。
俺の中で凍っていた何かが溶け始めた。暖かい春がやってきたような温かなものが流れてくる。
そうか…この女のせいか。
ヨハンナは食事が終わると鼻歌を歌いながら皿を洗っていた。
俺は後ろに立つと言った。
「おい、ヨハンナ」
「あら?名前を呼ばれました?何ですか?」
と洗い物が終わるとこちらを向いた。
「結婚してやってもいいぞ」
と言うとヨハンナが固まった。
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