第5話 依頼失敗

 俺は失敗した。召喚の時ヨハンナを部屋に入れるべきではなかった。勝手に助手扱いして巻き込まれて死霊に身体をまんまと乗っ取らせてしまった。


 こうなると金庫の番号を聞き出さないとヨハンナの身体から旦那の魂は出ていかないだろう。


『おい、何をする気だ?懲らしめるとは?さっさとそいつの身体を返せ!』

 睨みながら俺が言うと


『少しくらいいいじゃないか!お前この女の事が好きなのか?まさかお前の片想いか?なら…』

 と女の身体を操りエクムントが俺に手を伸ばした。


『お前にもいい思いをさせてやろうか?俺の報酬はこれだ』

 と俺の手を掴むとヨハンナの胸にムニュンと押し当てた!!


「!!」

 声にならない悲鳴で固まる。

 同時に気持ち悪い光景が頭に入ってきたが、目の前のヨハンナの身体だと言うことに気付いてバッと手を離した。


『なんだあ?気持ち良かったんじゃないのか?』


『ふん、男が誰でも色仕掛けで落とせるとでも思っていたのか?バカめ!俺にその手は通用しないぞ!』


『ちっ。まさか男が好きとかか?』


『何だと?てめえ、地獄に送るぞ?今回の依頼は諦めるか…』

 とため息をつく。慌てたエクムントは


『ひー!わかった少しだけ付き合えって!あいつの正体を教えてやる!』

 と言い、エクムントは深夜まで待った。


 その間、メイドが部屋に食事を運びにきた。ちゃんとフードを被り受け取った。


『お前女が苦手なのか?メイドのアイシャも良い尻してんのに』


『やめろ、飯の時間だ。お前も食え!旦那。それは生きている身体だ』


『おお!食事も久しぶりだな!』

 と食べる。


 中身がエクムントだとほんとイライラする。食事が終わり深夜まで待つとエクムントはついて来いと言い静かに動き出した。


 豚女の寝室に行き、シッと指を立てた。

 中から豚女の甘い声が聞こえて耳を塞ぎたくなる音やらがした。嫌悪感で睨むと


『ほらな?あいつも浮気してんだ!人を殺しておいてよ!そんで金庫を開けたら相手の男と結婚する気だ。まぁ、結婚というか、妻は騙されてて金を男に持ち逃げされるんだろうがな』

 と言う。


『それならさっさと番号を教えてしまえばいいだろう?持ち逃げされて絶望する妻が見たいのか?』


『いいや、ちょっと懲らしめると言ったろう?』

 とヨハンナの身体を操り指先に光を集め小さな球を作りドアの隙間からソッとそれを入れて放った。


 光は部屋の中で暴れまくり跳ね回ったから情事の最中だった彼等が悲鳴を上げ、屋敷の者達が起きてきた。俺はフードを被りエクムントと影に隠れて様子を見た。


「奥様大丈夫ですか!?」

 無遠慮に扉を開ける使用人達は衝撃の光景を発見した!!


「ああっ!!奥様!!カミール何をしているんですっ!!」


「ひっ!!?」

 と若い男のカミールと駆けつけたメイドのアイシャが青ざめた。


「ちち、違うんだ!アイシャ!これは!!」

「どういうことかね?」

「不潔だわ!カミール!!」

「お前達!!出て行きな!カミールと私は結婚するのさ!!」

「なっ!ち、違うんだ!奥様に脅されて…」

「嘘よ!カミールは金庫のお金が手に入ったら私と結婚すると言ったのよ!!」

「カミール!どういうことなの!?貴方私と…ああ!酷い!!」

 とアイシャが泣き始め場は修羅場になり他の使用人達もざわつきだした。

「違うんだよぉ~!アイシャとの結婚の為にこの豚から金を奪って逃げる気だったんだ!!全てアイシャの為に仕方なくこの豚と関係を持ったんだ!!」

「なっ!何ですって!?カミール!私を愛してると言ったのに!!」

「誰がお前みたいな豚相手にするかよ!!全て金の為だよ!!お前がさっさと番号を聞かないからだ!」

 とカミールと言う若い男は豚女を蹴ろうとして他の使用人に捕まり翌朝憲兵に引き渡された。


 翌日豚女は流石にしょぼくれていた。若い男に本気で相手をされていると思っていたようだ。


「お見苦しい所をお見せしましたわ。それで…金庫の番号は?」


「…まだもう少しかかります」

 と俺は報告するとエクムントは


『奥様…金庫の中に何が入っていると思います?』

 と聞いたら


「何って…お金ですわ?」


『もちろん入っているでしょう。しかしそれ以上に…旦那と愛人の間に産まれた子のこの家の相続権利書類を破り捨てる気なのでは?』

 と言われてエクムントの方をギロリと見た。


「何故…それを…?」


『やはりな!くくくく、愚かな女め!!俺は死ぬ前に子供がいると告げたからな。もちろん愛人の子!その子にこの家を継いでもらう気だった!お前とはいずれ離縁するつもりだったのに…』

 と言うエクムントに


「なんなのあなた!!」


『…っお前の思い通りにはさせないぞ!!ジェシー!!』


「ま、まさか貴方は…エク…』

 と言いかけた所で奥様の首を閉めようとしたので俺はヨハンナの身体を羽交い締めにする。


『邪魔すんな!!この妻だってカミールと浮気をしていた!お互い様だろー!俺と愛人のエリーとの子がこの家を継ぐんだ!邪魔させない!!』


「めんどくせえな!」


『おい。ネクロマンサーさん、金庫の番号は教えてやるからこの女を家から追い出し、俺とエリーの子がここを継げるようにこの女に約束させろ!!』

 と今度はヨハンナの身体を人質にエクムントは言う。

 使用人達はまたざわついて事態を見ている。


「ちょっと!依頼者は私よ!!」


「めんどくせえ…おりゃあー」

 とヨハンナの背中を叩き、エクムントを追い出した。


『え?』


「ちょっと…何?」

 二人ともポカンとしている。


「何だと?醜い争いを死んでからも見せつけるバカな死霊の相手をするのにも疲れたし帰るんだよ!悪いな。奥さん、報酬は要らないし後は他のネクロマンサーにでも頼みな!じゃあな!おい、起きろ!」

 とヨハンナの頰をバシッと叩き起こす。


「いたっ!!な、何すんですか!?」

 とヨハンナが起きた。俺はヨハンナを肩に担ぎヨハンナは驚いてバタバタした。


「ちょっと!?バルトルトさん!?依頼は??あ、そこにまだ死霊の旦那様が!!」


『おい!勝手に追い出しやがって!!』

 とエクムントがまたヨハンナに近付こうとしたのでサッとヨハンナを下ろして手に魔除けの指輪を嵌めて退けた。


『グアア!畜生!!』


『エクムントの旦那…男女の揉め事はそっちで片付けてくれ。じゃあな!』

 とヨハンナの手を繋ぎ俺は屋敷を出てまた死霊の馬車を呼び出しさっさと乗り込んだ。もちろん乗る前は指輪とかを外して置く。馬達を退けたら帰れないからな!


『え??嘘っ!?放置?この状態で他のネクロマンサーを待たさせるの?』


「ちょっと金庫の番号はなんなのよ!貴方!」


『教えるかクソ!!新しいネクロマンサーを呼べ豚女!!』


「何ですってカミール助けて!」


「うるさい!お前のせいでアイシャが…」

 とクリムンシュ伯爵邸は大騒ぎになったのだった。

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