第48話 スペイン編④
サッカーだけではなく、点の取り合いで勝負を決めるゲームにおいて、負けない方法は点を取られないこと。
自分達のチームが点を取れなかったとしても、相手に点を取らせなければ負けることはない。
「君らは、攻撃の時はポジショニングもパスワークもちゃんとできてたけど、守る時は、どれだけ意識してる?」
「んー、あんまりしてないかも。とりあえずボールを奪うことだけしか考えてないと思う」
少年の言葉に子供たちが頷く。
「なら、今日はボールの奪い方を一つやってみようか」
傑は子供たちを攻める側と守る側に分け、守る側の少年たちにボードを持ちながら説明する。
攻める側の子供たちは、いつも通り中からサイドにボールを振りながらDF陣を崩す攻め方をしていた。
今までならここでDF陣は釣り出されて最終ラインを超えられていた。
「お?あの子たち守れてるじゃないか」
監督やコーチたちが今までとの違いに驚いていた。
「もう少し中に入ってもいいよ!」
「わかった!」
子供たちは傑に教えてもらった形を作るために声をかけ合っていた。
「ちゃんとL字型になってる。止まれてるじゃないか。あとは・・・」
傑が子供たちに教えたのは、L字型を作り相手を止める方法。
裏を取られることもなく、中を絞ることで縦パスにも対応できる。
もし、サイドを振られたとしても効果は変わらない。
「いける!!」
一人、ラインを上げボールホルダーを止めていた子がCBの子に声をかけ、一気にボールを奪いにいく。
ボールを持っている子や周りにいた子は、流れを止められたことによってテンポがずれていたため簡単に奪われた。
この守られ方に慣れていなかったということもあるだろう。
しかし、プロの世界であれば、こんな簡単には行かなかった。
プロになる前のあの子たちなら、L字型を作るだけでも効果を発揮する。
「おおー!さっきとは大違いじゃないか!」
「でも、さすがですね。少し教えただけで、自分達で考えた上で実行できるなんて。それに・・・」
それに、あのボールホルダーを止めてた子。
多分視える子だ。
L字を作るタイミング、自身が止まる位置、ボールを取る声かけのタイミング。
逆サイドまでの相手チームの子たちの動きが全員止まった時点で指示を出していた。
よほどのレベルの差がないかぎり、動きが止まった時点で対応はできない。
今の時代のサッカーにおいて、サイドバックの出来がチームの出来につながるということがあるほど重要なポジションだ。
サイドバックの判断が戦況を左右する。
サイドバックが攻め上がる時は、自チームの守りが安定したと判断した時など、一歩間違えば一気に崩されるような時だ。
あの子はおそらく、自分のチーム・相手のチームに関係なく、近くの選手も遠くの選手もなんとなくわかると思う。
「あのサイドバックの子はすごいですね」
「スグルもそう思うか?あの子は、他のチームの入団テストで落ち続けたらしいんだが、面白いことをするやつでな」
確かに、敵味方関係なく動きを把握できるなど、天性の才能か、相当の訓練をしないと身につかない。
あの子は、天性の才能の方でよかった。
「「今日は、ありがとうございました!!」」
「ああ、またね。応援よろしく」
「「はい!!」」
子供たちとのサッカー交流を終え、監督に案内されながら帰路についていた。
「今日は助かったよ。毎年やってもらって助かってんだ」
「俺も久しぶりに楽しかったですよ」
「ここまででいいな」
「はい」
「今年こそは優勝してくれとそっちの監督に伝えといてくれ」
「わかりました」
マネージャーがちょうど車を出口付近に乗ってきたタイミングで別れ、チームの寮に帰っていった。
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