第41話 カタール戦①
最終予選第二戦当日
「こんばんわ」
「お、いらっしゃい〜」
遥は、佐伯一家とスタジアムで観戦するために待ち合わせをしていた。
「遥ちゃんは初めてだっけ?」
「そうですね。代表入りしてからは初めてです」
スペインでは毎回のようにスタジアムで観戦していたが、傑の妻だとばれたあたりからなかなか入りづらい状況になったため、こういう場に来るのは久しぶりだ。
「やっぱりすごいですね、傑は」
「当たり前でしょ。今や世界最高の一人だって言われるほどなんだから」
「そんなにすごいんですか・・・・」
遥は、サッカーをよく知らないため何がどういうふうにすごいかはわからない。
ただ、自分の夫が国内だけではなく世界から称賛の嵐を受けているのはわかる。
ピィーーーーー!!
「お、始まったわね」
カタール代表のキックオフで試合が始まった。
開始直後は、テレビで普段見るような流れで試合が運ばれる。
遥は、ボールを追いかけずに傑の姿だけを追いかける。
傑にボールが渡る。
「やっぱり楽しそう」
「え?何か言った?」
「あ、すいません。なんでもないです」
テレビで前回の試合を見た時よりも憑き物が取れたように楽しむ少年のような彼が見れた。
傑が、ボールを持つだけで観客たちは大きな歓声を上げる。
その歓声を受け、一人二人と躱していく。
開けたスペースに入ったところから、中に切り込んできた佐伯にボールが渡る。
隣にいる奥さんが叫ぶ。
「決めろー!!」
相手のDFも流石なもので速攻でコースを限定させる。
キーパーの好セーブに阻まれボールが溢れる。
そのこぼれ球に反応したのは、もう一人のFWの三島だ。
最近は出場機会に恵まれなかったがようやく回ってきたチャンスを見事に掴んだ。
久しぶりのゴールに観客も三島も興奮が隠せない。
他の選手が三島をもみくちゃにする中、傑はDFの綾瀬と話をしている。
他のDF陣から許可をもらい、綾瀬がポジションを一時的に変えた。
綾瀬は、傑とのダブルボランチに入る。
初めての光景に観客も解説も実況も、相手選手にもどよめきが走る。
その中で、ただ選手の位置が変わった、ぐらいにしか思っていない遥は、楽しそうな傑を見てただただ笑顔でいるだけだった。
キックオフと同時に綾瀬が相手ゴール前まで走る。
さらに客席がどよめく。
カタール代表は、傑とは遠い位置でボールを回し、日本のゴールに迫る。
DFが一人少なくなったためにシュートまで持っていかれたがキーパーが止める。
カタールの選手が急いで戻り始めるが、速攻を選んだキーパーが傑にボールを蹴る。
傑は、落下地点に向かって走り、振り返ることなくボールを納めトラップ側を狙う相手選手をかわす。
他にもカバーに入ってきていた相手選手は、まさかのトラップ技術に反応が遅れそのままスピードで抜かれる。
そして、綾瀬にボールが渡りキックモーションに入る。
軸足を見てキーパーが少し左に動く。
綾瀬が振り抜いたボールは、右に向かってネットに突き刺さる。
何かが成功したのだろうか。
傑が物凄く喜んでいる。
「本当によかった」
遥は、子供を見るかのような目で傑を見ていた。
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