第40話 カタール戦へ

「全員、休日は休めたな」

監督が全員を集め、最初に確認したのはそれだった。

前の試合の雰囲気をそのまま維持しても良かったが、監督は思い切って休ませることを選択した。

結果としては、予想以上で疲れが溜まっているものは誰一人としていなかった。


「よし、今日だがまずは体を慣らしてから。そのあとは、いつも通りにボール回しをしたら、ミニゲームで終わりだ」

コーチから、ボール回しの組み合わせが発表され、今回はDF綾瀬と同じく福田、島田と普段関わることがないメンバーとの組み合わせとなった。


「三条、お前は運動量が多いから最終ライン付近でのプレーがあるだろう。その時のための”癖合わせ”だ」

「わかりました」


”癖合わせ”

これが結構大事になる。ボールの蹴り方からタイミング、体の使い方に走る速さなど、全く同じ選手などなかなかいない。

だから、練習の時点でそれぞれがお互いに把握しておかないと、本番でずれてしまったら、相手の得点に直結する。


「よろしく」

「はい、よろしくお願いします」

フランス戦で、ハーフタイムに少し話した福田が最初に話しかけてくると、他の二人も話しかけてきた。

最初は、会話をしながらパスを回しボールになれる。


「じゃあ始めるぞー。時間は5分。よーい、初め!」

コーチの声とともに、自然とボールを回す側と獲る側、3−1に分かれ触られたら入れ替わると言う方式で始めた。


最初から違和感がある蹴り方をする選手がいた、綾瀬だ。

膝をせいで、蹴る方向がわかりやすい。

それは何もおかしくはないのだが、綾瀬はそれが露骨で、おそらくどこかで蹴り方を今の蹴り方に修正させられたような蹴り方だ。


ちなみに傑の蹴り方は世界のトッププレイヤーだけが使いこなす特殊な蹴り方で、ホイップキックと呼ばれるものだ。

ボールを蹴る足の膝を固定せず、可動域を広く作りキーパーやDFの動きを見て、ボールを蹴る直前に軸足が向いている方とは逆の方に蹴るもので、軸足を見て飛ぶ方向を決めるキーパーからしたら最悪の蹴り方だ。


「なあ、綾瀬。どこかで蹴り方とか変えた?」

「なんで?」

「いや、違和感がって言うか、わかりやすいから」

「あー、やっぱり?今の蹴り方にしてから点が入らなくなってさ、それでDFに転向したんだよね」


やっぱり。


「ちなみにいつ?」

「中学かな」

「なるほど」

ゴールデンエイジを迎える頃に、変な指導者にあったのだろう。

蹴り方を知らないのはしょうがないが、成長期が終わる直前で無理やり蹴り方を替えるなんて、よっぽどのことがない限りは愚の骨頂だ。


今から修正するのは可能か?

いや、それで故障されたら元も子もない。


「もしかして、前の蹴り方でも蹴れるのか?」

「それは蹴れるよ。当時の監督が嫌いでね、こっそりその蹴り方でしてたんだけど、試合に出させてもらえなくなってね」

「ひどいな」

まあ、それがこの国の指導の賜物だろうか。

全員が横にならえで、他人と同じでなければならない、異端児は排除するようなやり方。


おかげで、同じ考えの人間しか生まれてこない。

誰かが、右と言ったら右、左と言ったら左というように。

たまに、違う方向に行ける人間もいるが、それは天才として認められるか、もしくはー大半がそうだろうがー世間から排除される。


「前の蹴り方に修正できるか?良かったら協力するが」

「いいのか?」

「ああ、俺もその蹴り方の方が得意だ」

五分が経つ頃、最後の最後にホイップキックを見せ綾瀬を納得させた。




「いいか、綾瀬。イメージは鞭だ。足を鞭のようにしならせて体重を乗せるんだ」

ミニゲームもボール回しのメンバーで行くようで、ゲーム中にも綾瀬の蹴り方を少しづつ戻していった。


「島田!!」

相手からボールを奪った島田にパスをもらい、前を走る綾瀬の足元にボールを蹴る。


懐かしい感覚が蘇ったのだろうか、綾瀬の足は鞭のようにしなり、キーパーの逆をつきながら、体重が乗ったボールをゴールに叩き込んだ。







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