第42話 カタール戦②
前半が終了し、スコアは2−1。
前半終了間際に一点返され、一点差となった。
三島と田中、そして傑も後半はベンチに下がった。
監督は代えたがらなかったが、どうにかお願いして代えてもらった。
代表戦でそんなわがままが通るのは傑ぐらいだろう。
「コーチ、少し控え室に行っていいですか?」
「別にいいが、大丈夫か?」
「はい、大したことじゃないんで」
コーチに断りを入れ、控え室に戻っていく。
「おっとー・・・・、あぶね」
階段で躓きかけたが、転ばずに済んだ。
「ふう・・・・」
大きく息を吐きながら控え室へと歩いていく。
ドアノブに手をかけようとして、的を外す。
「あれ?早すぎないか、これ」
控え室に入った傑はそのまま深い眠りについた。
「さあ、日本代表ここを凌げば、イラン戦に続けて二勝目です!!」
「結構いい位置でフリーキックを与えてしまいましたね。でも、キッカーは三条選手じゃないので、防ぎようはありますよ」
日本の解説者や直接彼と対決した人たちは口を揃えて三条じゃ、スグルじゃないからと口にする。
それほどまでに、こう言う場面では必ず決めてきたのが傑だと言うこと。
そして、他の選手とは違う領域でプレーをしていると言うこと。
「三条選手といえば、珍しいですよね。途中交代なんて」
「ですよね。この采配には驚きましたが、あれだけの運動量を毎試合続けるのは流石の彼でも難しいのでしょうね。人間らしいところがあって安心しました」
解説者の言葉に放送席からはちょっとした笑い声が聞こえてきたが、傑の途中交代を別の意味で捉えるものが数人。
ある病院の医者は、
「予想より早く出たな。これは少し考えないと」
神妙な面持ちでカルテに何かを書き込んでいく。
妻である遥は、
「お願い、耐えて・・・・・」
何かに祈るように静かにそう言う。
どこかの親は、
「意外と持ったわね。でも、どこにきたのかしらね」
驚きと推察を。
彼らには、傑に何が起きたのかを知っているようだった。
ピィィィィィィィ!!
「さあ、ボールをセットしているのは、マテウス。キーパーまで出てきています!!おそらくこれがラストプレー!!」
「3ー2。どうにか凌いでほしいですね。延長戦だけは、避けてほしいです」
マテウスがボールに向かっていく。
キーパーの楢里がどうにか弾くが、まだ生きている。
カタールの選手たちがボールに向かって、日本の選手たちのユニフォームと掴みながらも走っていく。
「おらあ!!」
DFの城がなんとか体を張ってボールを外に掻き出す。
ピッ、ピッ、ピーーーー!!
笛と同時に観客席から大歓声が巻き起こる。
最近アジアのレベルが上がっている中での連勝は非常に大きな物を得ることができる。
選手たちが握手を交わし、インタビューを受けたり、控え室に戻っていく中でも歓声はやまない。
一人のスターが、世界に日本にサッカーの面白さを伝えた。
彼が起こした嵐は、止む気配は無い。
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