第33話 vsイラン②

徹底的に傑だけへのパスコースを完璧に封じ込められ決定的な流れが作れずにいた。


「これは、予想外ですねー」


「彼が全くボールに絡めないと、日本にとってこれ以上にない痛手ですね」


しかし、イラン側にとっても、この作戦は一種の賭けだった。

傑へのパスコースだけを潰す、それは簡単そうに聞こえるが、傑にパスを出せる位置にいる選手にボールが渡った瞬間に構築していたポジションを解体して、封じ込めのポジションを作らなければならない。


少しでも綻びがあれば、一瞬で崩れる。


そして、その瞬間がついに訪れた。


傑が、ボールホルダーに向かって走っていく。

手で、ボールを要求し、スイッチ気味にボールをもらい、この試合初めてボールに触れた。


傑は、目を向けることなく、フィールドの状況を把握する。

イランのポジショニングに穴がいくつも出来ている。


「入ったな」


パスを出す前に、確信した。


「!!」


珍しく慌てて、体をずらす。

傑の前には、死角から出てきた、アーリーがいた。

ここで少し、時間が生まれる。

イランのポジショニングが再構築される。


「へえ・・・・・」


確信を崩されたにも関わらず傑は、嬉しそうだった。


流石にレベルが高いな。

スペインの時以来の楽しさだ。


「傑!!」

佐伯が中まで戻り、パスを要求する。

一度佐伯にパスを出し、もう一度もらおうと動き出した。


「「え?」」

傑と佐伯の声が重なる。


「おーっと、これは!!アーリー選手が三条選手のマンマークについた!!」


「思い切りましたねー。彼を止めれば、日本の最大の武器は封じ込めることができる。しかし、彼を止められるのは、アーリー選手だけですから。イランにとっても最大の攻撃手段をなくすことになります」


お互いが、最大の攻撃手段を失い、拮抗状態になるかと思われた。

しかし、佐伯がチラリと、傑の手を見る。

それに、頷き、田中に目を向けた。


田中が、ゴールに向かって、斜めに走る。

DF陣も、それに釣られ追いかけていく。


佐伯が、傑に向かってボールを運ぶ。

アーリーは、迷った。

ここで、ボールに行けば、奪えるかもしれない。しかし、傑をマークから剥がしてしまう。


これが命取りとなった。


佐伯が、二人の間に入り込む。

アーリーが、佐伯の足元に目を向ける。


「!!ボールが・・・・」


なかった。佐伯の足元にはボールはなく、傑に目を向けるも佐伯のせいでよく見えない。


佐伯は、ボールを傑が蹴りやすい位置において、二人の間を抜けた。

傑は、置かれたボールに最短でたどり着き、田中によって掻き乱されたゴール前に向かって大きく蹴った。


イランのキーパーは、田中の奇妙な動きに釣られ、端によっていた。

田中にボールが渡ると思い込んでいたDF陣もボールの行方をあまり確認しなかった。田中を潰せば、と思っていたのだ。


傑が蹴ったボールは、キーパーとは逆サイドのゴールネットに向かって、放物線を描き吸い込まれていく。


「ゴーール!!日本先制!!やはり、この人!!」


「ははっ、心配なんて無用でしたね」


アーリーも、この結果には笑っていた。


「清々しいな。ここまでやられると」


前半25分。1−0で日本リードの試合展開となった。


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