第32話 vsイラン①

日本の第一試合は、対イラン戦。


「初戦だ。絶対に気を抜くなよ。それに、相手は同格の相手だ」

イランと日本は世界ランキング的に見れば、日本が二つ上だが、それだけしか違わない。


「スタメンは、さっき確認した通り、三条を出していくメンバーで行く」

今大会の日本のポジションは、傑が出るか出ないかで決まっていた。


「相手の中心選手は七番のアーリーだ。トップ下の司令塔らしく、パスの精度と、空間把握、ポジショニングが抜群だ。それから・・・・・」

監督に代わり、コーチが相手チームのスタメン選手を注意すべき順に特徴を話していく。


「よし、いいか。三条が最初から出るとはいえ、相手も対策は取って来るはず。気を抜くなよ」

「「「はい!!」」」


「あの、監督。三条いませんけど」


「え、あれ?さっきまでいなかった?」

「あ、なんか、女性に連れて行かれました」

猛が答える。


「なんか、気合入れた意味なくない?」

「もう一回やります?読んできましょうか?」

「いや、いい・・・・」

控室が微妙な雰囲気になる中、傑はというと・・・・・



「どうしたんですか?こんなところまで」

「ちょっと、報告したいことがあってな」

美咲に呼び出されていた。


「最近、遙の周りに中華系の奴が多いという報告が入ってな」

「中華系?」

「ああ、つまりは中国の人間だ。心当たりは?友人とか」

「いえ、全く。もしかして、あの人たち関連ですか?」

遥にも、自分にも中国の友人など全くいないはず。


「一応、万が一に備えて私たちで対処はするが、気をつけるように」

「はい。ありがとうございます」

「いよいよだな」

「はい」

「必ず、あいつらと再会することになる。表に出て来るまでは手が出せんからな」

いくら公安といえども、警察には変わりない。

多少の違法を犯してでも、追い詰め後始末をするのが本来だが、相手はこの国の人げではないし、何より公人だ。

突然いなくなったりしたら、大騒ぎとなる。


「よし、話は終わりだ。行って来い」

「はい。ありがとうございました」

美咲と別れ、傑は控室に向かった。

中に入ると、ものすごく微妙は雰囲気で迎えられたが、何事もなかったようにやり過ごした。



傑と別れた後、美咲はコーヒーを飲みながら一枚の写真を見ていた。


「傑を救うためだけじゃない。私の復讐でもある」


その写真を握る手には力が入りすぎて、写真の形を歪めていた。


「湊人・・・・・・」


写真には、研究者風の優男ーー湊人ーーとスーツ姿の美咲と小さな時の遥が、そして、湊人の足にしがみついている傑の姿があった。




◆◆



ピィィィィィィィ!!


「試合開始です!!日本にとっても、イランにとっても、重要な初戦が今始まりました!」


「この試合は何としても取っておきたいでしょうね。その証拠に三条選手が、スタメン出場してますからね」


「さあ、その三条選手にボールが渡るか!!おっと、ここは、距離があったか、パスカットをされてしまった!」


「今の、イランの選手のポジショニングはうまかったですね」


「というと?」


「今、三条選手の近くには誰もいなかったんですが、三条選手にパスが出せる選手にボールが渡った瞬間だけ、ホルダーの選手のパスコースにイランの選手が立つことで、苦し紛れのボールになってしまったんですね。おそらく、三条選手に渡せば何とかしてくれますから、迷ったら彼に出す、そこを狙われましたね」


「では、この試合は、そこを攻略しないと難しいと」


「ですね。ただ三条選手も今ので理解したでしょうから、対処はして来ると思いますよ」


ピッチ上では、傑がいつも以上に、走り回っていた。

「流石に、簡単にはいかないよな」


まだ始まって間もないが、一度もボールに触れないのはこれが初めてだ。

柄にもなく、ワクワクしている自分がいた。






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