第31話 最終予選前のひと時

二次予選を余裕の一位で突破し、最終予選へ駒を進めた。


グループA

日本・韓国・イラン・オマーン・レバノン・カタール


グループB

オーストラリア・UAE・中国・シリア・サウジアラビア・ベトナム


最終予選でも、二次予選同様にグループの中から上位2チームが本戦に出場する権利を得ることができ、3位のチームが大陸間のプレーオフに入る。


日本は、今大会最大の障害となる中国とは、戦うことはなく本戦までのお預けとなった。日本チームにとっても傑にとっても懸念材料だった中国とここで戦わないのは、吉と出るか、凶と出るか。


「えー、兄さんと会えないの?」

「我慢しなさい」

傑によく似た女性が、不貞腐れる童顔の男を宥める。


「でも、楽しみにしてたから、予選も張り切ったのに・・・・」

「綾人・・・じゃないわね。傑は逃げないわ」

まるで、おもちゃは逃げないと、子供に言い聞かせるように言った。


「そうだといいんだけど・・・・」

「大丈夫よ。万が一があっても、逃がさないから」

女性の手には、傑と歩く遥の写真が握られていた。



◆◆



「よし、最終予選は中国とは別になったが、油断はするなよ。前回大会は危なかったからな」

前回大会は、最終予選で一番大事だと言われる初戦を落としていた。

初戦を落としたチームは必ず敗退するというジンクスがあったが、それを打ち破っている。

しかし、所詮が大事なのには変わりがない。


「今日は、試合明けだからな。軽いミニゲームとストレッチで終わらせるぞ。そのあとは各自、休んでくれ」


数人のチームは別れ、ランダムに数試合行った。

そのあと、柔軟をこなし、体をほぐした。


「傑、このあとどうする?」

佐伯が駆け寄ってきた。

なんか、最近は最初の印象と全く違うな。

「別に、これといった用事はないな」

「じゃあさ、どっか遊びに行かね?」

「どっかって、どこだよ」

自慢じゃないが、日本の遊ぶ場所なんて全く知らない。


「うーん、買い物って柄じゃないし・・・・」

何にも決まってねえのかよ。


「それなら、飯でも食べにいくか?」

傑から提案した。

「お、いいね。田中も誘おうか」

佐伯は、田中のところに行き、了承をもらったようで急いで準備をしていた。


「サッカーをしてなきゃ得られなかったものか・・・・」

遥によく言われることだ。

あの時、サッカーをやると決めてなければ、今の生活は手に入れられてない。

そう考えれば、退屈も過去のこともいつか忘れるとよく言われていた。


「遥以外とは初めてだが、なにをするのが普通なんだろうか」

友人と買い物など行ったことがない傑は、妙に緊張していた。



◆◆



「ねえ、傑」

「なんだ?」

「なんで、変装してないのかな?」

「え?」

日本では、変装して買い物に行くのが普通なのか?

それは、知らなかった・・・・。


「はあ、君が今どれだけ世界から注目されてると思ってるんだ。そんな人がショッピングモールに素の格好で来てみろ。大パニックだよ」

「そういうもんなのか?」

「そういうもんだよ」

田中を見ると、苦笑いしながらも、否定していなかった。

そういうもんなのか・・・・。


「とりあえず、僕のを貸すから。まずは、君の変装用のものを買いに行こうか」

予備のメガネやマスク、帽子を借りてショッピングモールに入っていった。

準備がいいな、佐伯は。




「これがいいんじゃないかな」

「いや、こっちだと思うな」

田中と佐伯が傑に似合うものを選びあっている。

これって、男だけでやるものなのか?


普通がわからない俺でもわかるぞ。

顔を全くと言っていいほど晒してない男三人が、正確には二人が一人の男に似合うものを選んでいる。おそらく、周りの人には変に見られると。


「なあ、もう何でもいいんじゃないか?」

「「まだだね」」

佐伯はわかるが、田中までこんなにノリがいいとは・・・・。


二人のそばには、似合う服やアクセサリーだけを積み上げた山が出来上がっていた。

「どれだけ買うつもりだよ」

お金には困ってないが、置く場所がないぞ。

そもそも服は安物で十分だし。

何なら、ドレスコードを突破できる服は一着で、他はジャージでいいぐらいだ。


「よし、次行こうか」

「え?」

佐伯たちは、店員に話をつけ会計を済ませていた。

服は、発送してもらうらしい。


「なあ、そんなに買っても置く場所がないんだけど・・・」

「ああ、それなら大丈夫。僕が、服用に買った家があるから」

田中が衝撃発言をした。

お前そんな感じなのか・・・・。


「じゃあ、行こうか」

「だね」

「・・・・・・・」


今日は、試合より疲れそうだ。



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