第28話 第2次予選開始前の練習

数日後、チームから招集がかかり代表メンバーは、グラウンドに集合していた。

今日は、予選に向けてのミーティングとミニゲームをして、感覚を共有するそうだ。


「よし、今日は調整日ということで自由にしてもらう」

監督からそう指示があった。

でも、毎回自由な気がする。


「なあ、毎回こうじゃないか?放任主義なのか?」

他のメンバーもそんなことを話していた。

「さあ、めんどくさいんじゃない?」

「それでいいのか?」

普通は良くない気がする。

スペインの強豪でも練習は指示が出ていた。


「いいか、お前ら」

そんな声が聞こえたのか、監督が語り出した。


「プロってのは、子供じゃねえんだ。しかも、それが日の丸背負った代表ならばなおのこと。いつまでも、監督とか、肩書きしかないやつにあれこれ言われるのは子供のすることだ。つまり、そういうことだ。別にめんどくさいとか、そういうことじゃない。本当だぞ」

じゃあ、よろしく、とコーチと選手をおいてその場を後にした。


「最後のが本音じゃね?」

誰かの声が聞こえたが、この場にいる全員が同じ意見だった。


「で、では、練習開始」

コーチの言葉を皮切りにポジションごとに練習を始めた。


傑を中心に練習をするMF組は、条件付きの鳥籠をしていた。


「これ、結構難しいな」

猛が、そんな感想を漏らした。

現在行っている鳥籠は、ボールタッチ数をさせたもの。

そして今は、ツータッチで返さなければならない。

ツータッチ以内ではなく、ツータッチ目でパスをしなければならない。


「基本だぞ、猛」

「そうは言ってもよー」

傑は、猛にこれぐらいできるだろ?と遠回しに言った。


この練習は、単純に見えて一番大事で、一番実践的な練習。

狭い範囲の中で、止めて蹴るという基本的なサッカーの根幹の技術。

ダイレクトパスでやれば、ポジショニング判断をしてパスを受け、次に回す。

しかし、サッカーで大事な瞬間は、『オフ・ザ・ボール』、ボールを持っていない時が全て。


ボールを持っていない時こそ判断を最高のキャパで行える。

その状態で最高のポジショニングを、コーチングをすることでボールを持った選手が判断をしやすくなる。さらに、一度ボールを止めることで、視線も前に向けることができ、視野も広がる。極端なことを言えば、ボールホルダーが一切動かなくても、周りが動けばボールは前に運べる。


それができれば、日本のサッカーもスペインのサッカーレベルに近づく。


「しばらくは、ポジションの近い俺たちでこれを極める。中盤が機能すれば、DF陣もラインコントロールがしやすくなるはずだ」

「確かに、これは大切だねっ」

ボールを回し、ポジション移動をする鴨居が傑の考えに賛同した。


「よし、しばらく休もうか。互いに意見を交換してくれ」

これも、大事だ。お互いのポジショニングの良し悪しを言い合うことで、次に繋げることができる。

監督が初日に行ったコミュニケーション時間は、こういうところで役に立つ。


その後、練習前よりもお互いに意見を言う様になっており、格段に動きが良くなっていた。


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