第27話 弱いもの

吐き気がおさまり、なんとかチームメイトと合流し、家路に着いた。

佐伯や田中にえらく心配されたが、大丈夫とだけ伝え、一人にしてもらった。


「ただいま・・・・・」

「おかえりー」

いつも通りに遥が迎えてくれる。

いつもなら、声を聞いただけでもだいぶ楽になるが今回ばかりは、無理だった。


「早くお風呂にいってきなよ」

「・・・・・・おお」

遥はいつもと同じようにご飯の準備をし、お風呂に行くように促した。


お風呂に向かう傑の背中を見た遥は、美咲に聞いていたが想像以上に辛そうだと理解した。

初めて会った時のような姿になった彼を見て、懐かしさと同時に悲しくなった。

彼と初めて会ってからというもの、一切感情を外に出さなかった傑に感情を出してもらうまでいろんな努力をしてきた。

中学・高校でようやく普通に笑う程度にはなったが、それがただの強がりだと知ってなんとも言い難い気持ちになった。



傑がお風呂から出てきて、食事をすることになった。

「今日は、どうだった?」

「・・・・・・まあ、普通だった」

事情を知っている身からすれば、明らかに嘘だとわかる。


「何か、あったんでしょ?」

「いや・・・・・・」

「話して」

「だから何も・・・・・・!!」

「いいから」


今日の傑は、精神的に弱いため、少し押すだけで折れた。


「その・・・・・」

少しづつ、今日あったこと、この前話した子供の頃のことを交えて話した。


「そう、そんなことが」

「だから、今日は一人に・・・・・」

「一緒に寝ようか」

「え?」

「一緒に」

「・・・・・・・」

「いいね?」

「はい・・・・・・」


食事をいつもと違い静かに済ませ、寝る時間までいつものように過ごした。


「今日は、キツかったね」

二人は、久しぶりに同じ布団に入っていた。


「なあ、なんでそんなにくっつくんだよ」

遥は後ろから傑に抱きついていた。

「ん?なんとなく?」

「こんなことされたら、その・・・・・」

「されたら?」

「・・・・・なんでもないです」


傑は、サッカー界では敵なし、だが日常では、精神的に不安定さが残る普通の人。

妻には、絶対に敵わない普通の夫。

ただ、違うのは過去にあったことが普通とはかけ離れていて、いまだに逃げきれていないということ。

その過去から、抜け出せない限り、傑は弱者のまま。

彼を救い出せるのは、遙しかいないと美咲も遙自身も理解している。


でも、もし、嫌いなサッカーで、両親に、あの時の子供に会ってしまったらどうなってしまうのか。

それだけが不安で仕方がなかった。

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