第26話 アジア予選組み合わせ
翌日、代表選手はアジア予選の組み合わせ発表を待ち侘びていた。
「やっぱり、中国と一緒になんのかね」
「あ〜、なんかすごいやつがいるんだろ?」
多くのメンバーは、中国のことについて話していた。
「なんでそんなに中国に注目してんだ?」
傑は、スペインにいる間でもアジアには興味がなかったのか、よく知らなかった。
「知らないの?」
「まあ、あんまりこっちのことには興味なかったから」
「そ、そうなんだ・・・・」
田中は、これが2年連続MVPの考え方かと感心していた。
「で?そのすごいやつって誰なんだ?」
「あー、それはね・・・・」
スマホを取り出し、検索した。
「この人だよ」
田中が見せてくれた画面に映っていた日系中国人の顔を見て思考が吹っ飛んだ。
なんで・・・・この顔は、あの時見た・・・・・・。
画面に映る顔は、外に出てくる前に見た唯一の同じくらいの年齢の子供。
そして、体中に痣や注射後を作り、あの部屋で倒れていた子供。
自分が休んだせいで、代わりとしてあの人たちに人生を弄ばれた子供。
「ヂィエ・・・・・」
それが、彼の名前だった。
この名前は、偶然か?『ヂィエ』は、日本語で『傑』と表せる。
もし、あの時の子供がこの人だとしたら・・・・・。
確実にいる。あの二人は、確実に中国にいる。
「傑、大丈夫かい?」
佐伯が田中の反対側から顔を覗き込んできた。
「っ・・・・!!」
傑は、背中に汗をかいていた。
「すまん、少し席を外す・・・・・」
「どうしたのかな」
「さあ・・・・」
今までに見たことがないほど動揺を見せた傑の後ろ姿を見送った。
会場を抜け、トイレに向かっている傑の姿は、何かに怯えた様子だった。
これまで保っていた、サッカーに対する恐怖心への強がりが一気に崩れ落ちていた。
「なんで、今になって出てくるんだよ・・・・・」
どれだけ天才でも、どれだけ強がっても、過去の恐怖には勝てなかった。
それが、肉親から受けた恐怖であることが、多くの命を人生を犠牲にしたものであることがいつまで経っても傑の、奥底で燻っていた。
「うっ、うおぇぇぇぇぇ」
胃のなかが空になるのを感じる。
遥に救われるまでは、サッカーという言葉を聞くだけで吐き気がしていたが、実際に吐くことはなかった。
しかし、今回は、その内容が濃ゆすぎた。
その日、解散の時間まで傑が会場に戻ることはなかった。
その様子を、美咲に頼まれていた警備員に扮した公安が見ていた。
「美咲さん、やはりまだでした」
「そうか。まだ強がっていたか」
電話の相手は、依頼主の美咲だった。
「どうしますか?」
「そうだな。まだ、報告するには早すぎるな。遥に何があったかだけは伝えておこう」
「では、今日のところはこれで失礼します」
「ああ、忙しいのにすまんな」
「いえ、あの子には、普通の生活が送れるようになってもらうまで、見守るのが助けられなかった我々の使命ですから」
「そうだな」
その後、遥に事情をかいつまんで伝えた。
きっと、遥なら傑を過去のトラウマから本当に救ってくれるだろう。
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