第25話 アジア予選に向けて

フランスとの強化試合の後、注目を浴び続けた傑の日々は忙しいものだった。

テレビで特集を組まれたり、週刊誌に追いかけられたり、大変なものだった。

しかし、それも長くは続かなかった。

テレビは、何事もなく特集を続けたが、ある週刊誌が遥のプライベートに踏み込んできた。それを知った傑が持ち得るコネクションを全て、全力で使い、その記者並びに出版社に圧力をかけた。

そのことで、記者は二度と記事を書こうとはせず、出版社も世間から叩かれ過ぎて倒産した。


「傑、あれはやりすぎだよ」

佐伯が、呆れた口調で言った。


「仕方がないだろ。遥に手を出したんだ。ああなって当然だ」

「ほんと、奥さんのこと好きだよね・・・・」

「当たり前だ」

「・・・・・・・・」

隣を歩く遙が、恥ずかしくなって顔を背けた。


「で、どこまで行くんだ?」

傑は、佐伯から誘われ遥を連れてきていた。

「レストランだよ」

「レストラン?」

「うん。僕の妻がやってる店なんだけどね、貸切にしてもらったから」

「へ〜、料理人やってんだ」

「すごいな〜」

遥も、興味津々に声を漏らした。


「遥、興味あるのか?」

「うん。料理好きだからね」

確かに、遥の料理はうまい。


「あ、じゃあ働いてみる?」

「え?」

「妻に頼んでみようか?」

「いいんですか?そんなことしてもらって」

「いいよ。妻も喜ぶだろうし」

同じサッカー選手の夫を持つもの同士、話も合うだろう。


「あ、ここだよ」

目の前には、都内でも立派なレストランが建っていた。

「すごいな」

スペインでもそれなりのレストランに行った事はあるが、それよりもすごかった。

「うん、なんか別世界みたい・・・・」

「じゃあ、入ろうか」


カランと扉の音を鳴らしながら店内に入った。




「うわああああ」

遙が感動していた。

確かにすごい。

「「いらっしゃいませ」」

ホールスタッフは、貸切ということで、2名だけだった。


「お、いらっしゃい」

奥の方から、女性が出てきた。

「紹介するよ。こっちが・・・・」

「傑さんに遙さんでしょ?」

「うん・・・」

「私は、佐伯明美っていいます」

よろしく、と握手をし、挨拶を済ませた。


「今日は、楽しんでいってよ」

「はい、ありがとうございます」

「あの、こんなことお願いするのは失礼だと思いますが・・・・」

「ん?なになに?」

「調理場に入らせていただけませんか?」

おー、遙がここまでのお願いをするなんて。

調理場はいわば料理人の聖域、そう簡単には入らせてもらえない。

それを承知の上でお願いしたのだろう。


「・・・・いいよ」

「え、いいんですか!?」

「その代わり、ちゃんと見るから」

「はい!」

二人は、そのまま奥に言ってしまった。


「男だけになっちゃったね」

「まあ、いいさ」

遙が自分からしたいというなら、やめさせる理由がない。


その後出てきた料理に感動しながら、佐伯と二人で今後のことについて話し合った。


そして食後、遙がご満悦な表情でホールにやってきた。

「傑、私ここで働きたい!」

「いいんじゃない?」

「え、いいの?」

「なんでダメだと思ったの?」

「いや、なんとなく」

「遙がやりたいならいいよ」


遥は、明美に報告に行き、スケジュールをいろいろ立てていた。



「ごちそうさま」

「ありがとうございました」

最後は四人で世間話をした後、帰ることになった傑と遙は、店の前で佐伯夫婦に挨拶していた。

「また来なよ」

「遙さん、よろしくね」

傑たちは、店から駅の方に歩き出し、明日のことについて話していた。


「明日、予選の抽選会だよね」

「ああ、2次予選からのやつだけど」

日本のランキングは、34位以上なので2次予選からの挑戦になる。

「頑張ってね」

「ああ」


二人は、家に着き、布団に入った。



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