第23話 後半戦③
CBの二人がアランからボールを奪い、傑へと繋いだ。
「次は、佐伯の番だな」
傑は、チラリと佐伯を見て、頷くのを確認した。
今回は、アランが前線にいるため、スムーズに相手の中盤に入れた。
傑は、またもゴールから離れた位置ー先ほどよりかは近くーで”軽く”キックモーションに入り、ロングボールを蹴ろうとしていた。
「クッソッ!」
フランスの、選手が何度もやられてたまるか!と言わんばかりの勢いで止めにきた。
どんなに優れた選手でもキックモーション中は必ずボールは足元から離れる。
フランスの選手は、そこを狙っていた。
”いまだ!!”
彼は、傑の足元に自分の足を伸ばしボールに触れようとした。
触れるだけでも、先程のようなパスは防げるからだ。
しかし、傑は今までのレベルの高い選手とは、少し違った。
「!?」
体を倒し、足を伸ばそうとした瞬間、傑はモーションに入った利き足を素早く戻し、チップキックをした。
足を伸ばした選手は、その足を傑の足にかけてしまった。
ピィィィィ!!
「おーっと、ここでフランス側のファウルです!いい位置でフリーキックをもらいました!」
「いや〜、今のはいやらしい誘い方でしたねー」
「いやらしいですか?」
「ええ、あのキックモーションはいつもより少し軽く見えましたが、素早く振る動作に入るためのものでしたね。足を出してきたのを見計らってキックに入る、そうすることで足をかけられやすくなるということですね。人間そんな簡単に止まれませんから」
「流石のフランス代表もこれには対応できないということですね」
「はい、しかし、いい位置でファウルをもらいましたね。これは直接狙うんじゃないでしょうか」
「やはり、キッカーは、三条選手でしょうか」
「みたいですね」
ピッチでは、傑がボールをセットしていた。
傑は、ゴールに背をむけボールから離れる。
アランを見つけた傑は、指でゴールの枠を作り、その角を示した。
「よし、やるか」
ピィィィィィィィ!
笛が鳴り、全員が気を引き締めた。
そんな中、傑は・・・・・
「次はどうやって決めようかな」
すでに結果はわかってると言わんばかりに、次のことを考えていた。
軸足をボールの隣に置き、インサイドでボールを擦るように蹴り上げた。
ボールは、アランの時よりもあからさまにカーブを描き、誰しもが、キーパーまでもが眺めるだけだった。
それほどに、完璧な軌道だった。
「すげぇ」
それは、日本語かフランス語か、はたまた両方か、傑の耳にその言葉だけが聞こえてきた。
ザンッ
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
「ゴーーーーーール!!何と見事なフリーキックでしょうか!!」
「いや、もうここまできたらある意味出場停止レベルですよね」
呆れたような解説がされていた。
「決して100%とはならないフリーキックの得点率も、彼にかかれば100%になりそうですよね」
「ですね。あそこまでのキックを見せられると否定できないですね」
「やはり、スペインでの活躍は本物だったということですね!」
「そういうことですね。彼が日本に来るまでは、放送されてませんでしたから誰しもが半信半疑だったと思いますよ」
「しかし、その前評判も完全に覆りましたね」
現地で観戦している観客はもちろんのこと、テレビの前で観戦しているファンたちは、興奮の絶頂に立っていた。
「へぇ、これが僕の兄さんか・・・・・・・」
多くのファンと同様にこの試合を見ている一人の少年がテレビの前でそう言った。
「早く会いたいね、兄さん」
その顔は、かつて傑が見た少年にそっくりだった。
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