第21話 後半開始
「あの、佐伯さん・・・・・」
三島は、交代が決まったあと佐伯の元に行った。
「なに?」
「あの、俺、何が足りなかったですか?」
性格に難はあるが、プロになるだけあって、ちゃんと大人だ。
聞きに来れるだけで、十分だ。
「そうだね。君は、日本代表だよね」
「はい」
「日の丸を背負えるだけあって、うまいと思うよ」
でもね・・・・・、と佐伯は続ける。
「日本代表の中には、2種類の人間がいるんだ。わかる?」
佐伯は、指を二本立て、三島に聞いた。
「2種類・・・・、いえ、わからないです」
「まずは、僕や君たち”日本基準”の日本代表と、傑のいる”世界基準”の代表だよ」
「世界基準・・・・」
「僕もそこに行きたいんだけどね」
なかなか難しいんだよこれが、と苦笑いしながら言った。
「彼に認められたいのなら、その鼻へし折って、世界を見るべきだよ」
◆◆
「さぁ、後半戦が始まります!前半とは違った動きになるのか、両チームのキープレイヤーに注目です!」
「そうですね。私は、とにかく三条選手の動きに注目したいですね」
「やはり、最後のプレーですか?」
「いえ、最後だけでなく最初からですね」
「最初からですか?」
「ええ、私も最後のパスを見て確信したのですが、あの心理的コントロールは、並大抵のプレーでは不可能ですよ」
「なるほど。それは、注目ですね」
ピィィィィィィィィィィィィィィィ!!
「さぁ、後半開始です。日本のキックオフで開始しました!」
「おっとこれは、日本代表はいきなりラインを上げてきましたね」
「フランス相手にここまで強気に出るチームは珍しいですね」
傑は、ボールを持ち、前を向いた。
田中とコンタクトを交わした。
「何を見せてくれるの?」
傑の前には、アランが腰を落とし警戒していた。
「まぁ、見てればわかるよ」
「!?」
いきなりキックモーションに!?
アランは、予想していなかった。
この距離から、ロングボールを入れるなんて・・・・。
「あーっと、ハーフラインを少し越えたところから、ロングボールを放り込む三条選手!その先には・・・・・・田中選手だ!」
「すごいボールコントロールですね〜。ここまで、綺麗だと奪われやすく思ってしまいますね」
傑の放り込んだボールは、多くの選手に目で追われながらまっすぐ田中の方へと向かっていった。
オフサイドは、なし。
「マジかよ・・・・・!!」
フランスのDFの一人がそんな言葉を漏らした。
あいつ(田中)、全くボール見てないじゃないか!
最初の瞬間だけだぞ、ボールを見たのは。
いや、ありえない。
フィニッシュの前には必ず見るはず、そこで、奪うしかない!
しかし、そんな思惑とは裏腹に、田中は、一度も振り返ることなくただただ足を振り抜いた。
「ゴーーーーーーール!!なんということか!田中選手、三条選手が放ったボールを最初のコンタクト以降、全く見る事をせずにそのまま蹴り抜いた〜!」
「いや、今のはちょっと予想外のプレーでしたね」
「やはりそうでしたか」
「はい、後半始まってまもないということから田中選手の情報が少なかったため、警戒は薄かったんだと思いますが、あれだけボールを信じて走れるってだけでもレベルの高さが伺えますね」
田中は、練習の時以上に興奮して、サポーターの元へ向かった。
意外と、熱いところがある田中であった。
それをみたアランは・・・・・
「はは、なんだよそれ。全く近づいてもいないじゃないか」
と、視線を落とした。
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