第11話 親の愛

「昔々あるところに・・・・・」


「なんで日本昔ばなし風?」


「いや、雰囲気出るかなと思って」


「普通にやって」


「・・・・・はい」





20年ほど前、ある男女が夫婦になった。

二人とも研究者で、脳科学を研究していた。

共通する研究テーマを持っていた二人は、一緒にいることが多く、自然と仲良くなり、結婚するまでに至った。


そして、一年後二人の間に一人の男の子が誕生する。

『赤羽 綾人』それが赤ん坊の名前だった。

生まれたての頃は、幸せだった。二人は、綾人を愛し大切に育てた。


「え、ってことは、傑は本当は綾人っていうの?」


「そうだよ。でも、美咲さんに助けてもらった時に綾人は死んだ。傑として新しい生をもらったんだ」


「ふ〜ん」


綾人が、歩き出した頃一つのものに興味を持ち出す。

それが、サッカーボールだった。

暇さえあれば、一日中ボールに触れ、戯れていた。


そんな綾人を両親は、微笑ましそうに見て、同時にある実験の対象として見てしまった。研究者として、世界的に権威のあった二人は、息子の綾人にも世界的権威を持たせることを押し付けるような思考になった。


二人は、世界中の研究者にサッカーで世界的に活躍する選手の脳の細胞情報をとってもらい、共通点を探し始めた。

そして、発見した。


その日から二人は綾人を研究室にたびたび連れていき、彼の脳細胞の情報を調べた。

しかし、発見できなかった。

綾人には、世界的に活躍する選手に共通する細胞が見つからなかった。


今考えても綾人に罪はないし、そんな細胞情報がなくても生きていけないわけではない。でも、二人は違った。優秀でなければ生きていけないという歪んだ選民思想、そして以上なまでに歪んだ愛を綾人に向けてしまった。


「・・・・・それで?」


「うん。物心ついたときには今考えればそんなことはないとわかるが、あの日々が始まった」


綾人が物心ついたときには、周りにはモニタールームがあるような施設に入れられ、運動能力向上のためのプログラムを行い、またある時は、台に乗せられアドレナリンだと思われる成分の注射を死なない程度に打ち続けられる。


遥は想像以上の内容に頭が真っ白になりそうだった。

全てを知らないとはいえ、この日本でそんなことが行われていることを信じられなかった。


「その大丈夫?」


「大丈夫だよ」


傑は話を続けた。


ここまでする人たちに少し良心が残っていたのか、一年の休息が与えられた。

最初は、いきなりのことで戸惑ったが、部屋にいても研究者が来ないことがわかり、休息を楽しむことにした。


しかし、ある日、研究所内を探索することにした。

子供の綾人から見ても立派な施設だった。


あるとき、いつもと同じように探索していると大人の声が聞こえてきた。


「・・・・・・・さんには、・・・・・せんよ」


「では、・・・・・・・しますね」


よく聞こえなかったので、声のする部屋に行くと、そこには両親と助手の女性、そしてある男とその秘書らしき人がいた。


両親は、相手の男に何かの書類を渡し、男からは封筒を受け取っていた。


「では、お願いしますね」


男が部屋から出る様子だったので、慌てて離れようとするが遅かった。


「おや、君は?」


「ああ、この子が息子の綾人です」


「なるほど」


男は綾人の頭に手を載せると、頑張るんだよ、私のために。


そう言って、綾人の前から離れていった。






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