第7話 帰ってきた悪魔

傑と遥が日本を離れ、スペインに入り、3ヶ月が過ぎた。


傑は、あの日の試合を見に来ていた、スペインの強豪クラブ『マスフェルト』のダーナ監督にお世話になり、形上の入団テストを受け、合格。クラブの経営者を納得させるため、最初の出番が来るまで、契約金はなし。しばらくは遥と寮で暮らすことになった。


「傑〜。今日、チームメイトとの紅白戦でしょ?早く起きないと」


「うん?あ〜、わかってる」


日本にいた時から二人でいることが多かったため、違和感はなかった。

いつものように朝食を食べ、準備をしグラウンドに向かう。


「行ってきます」


「行ってらっしゃい」


まるで新婚のような雰囲気を出しつつもまだ義兄妹という肩書きはそのままだ。





歩いて5分ほどのグラウンドに到着するとすでに大半のチームメイトが集まっていた。最初は、いきなり現れて監督からも一目置かれている傑をチームメイトは、毛嫌いしていた。


「よしっ、全員集まったな」


どうやら一番最後だったみたいだ。


「さっそく紅白戦を始める。まずはAチームから・・・・」


チームが決まり、試合が始まろうとしていた時、一人のチームメイトが話しかけてきた。


「スグル。お前何ができる?」


チーム内でもキャリアの長いアレクが訪ねてきた


「・・・・・なんでも」


その答えにアレクの体がピクッと反応した。


「なんでも?」


「ああ、なんでも」


「なるほど・・・・」


中途半端やろうってことか。その呟きはしっかりと傑に届いていた。


傑は、何も言い返さず。試合が始まるのを待った。





僕の名前は、エリク。去年スペイン最高のクラブ『マスフェルト』に移籍してきた。

今までもそれなりの強豪にいたが、ここはレベルが違った。前のチームで鼻高々にしていた僕の鼻は根本から根こそぎおられた。FWのアレクもMFのマイアーもあのアランほどではないにしろとんでもないレベルだった。


これからこの環境で、最高の環境でサッカーができる。そう幸せな気分に浸れるのもが現れた時までだった。


スグル・サンジョウ。


監督がいきなり連れてきた日本人。監督はいつも新加入の選手を歓迎してくれるが、彼だけ以上に歓迎されていた。僕は、気にしてないが、長年監督のもとでやってきたもの達にとったら面白くないだろう。


3ヶ月もの間、彼がチームメイトと仲良くしているところを見たことがなかった。

僕は、新参だから気にせず話しかけた。


「スグル。何してんの?」


彼は、チームメイトが帰った後、一人グラウンドに残りボールを蹴っていた。

それを見て確信した。


(彼は本物だ!)


全身の細胞が活性化するのがわかった。


あんなに、あんなにもボールにサッカーに愛されたやつは見たことがない。


「ん?あ〜、久しぶりにまともにボールを触るから。感触を確かめてるんだ」


「久しぶり?一週間とか?」


時差ぼけとかでまともにボールをさわれなかったのかな?


「ん〜、五年ぶり?」


「は?」


は?五年ぶり?何言ってんだこいつ。

確か、まだ16歳かそこらだろ?

てことは、11歳からまともにボールに触ってないのか?

ゴールデンエイジにすらサッカーをせずにここまでできるのか!?


やべえ、こいつはやべえ。

僕は、スグルについていこうと、この時決めた。

こいつと一緒なら、世界のてっぺんを見れる。


ならまずは、こいつに認められるCB(センターバック)になる。

この日、僕の目標は定まった。


「なあ、どうやったらスグルに近づける?」


「おれに?」


「ああ、DFとしてでもいいスグルの理想を教えてくれ」


「なら、明日の試合、同じチームになったら・・・・」


スグルの言葉に素直に頷いた。




無事に傑と同じチームになったエリクは、自分の傑に対する評価を正しかったと思うと同時に驚愕していた。


「まさかここまでとは・・・」


目の前では、相手チームのみならず、自チームのメンバーさえ翻弄されていた。

最高のクラブで常にスタメンを張っているアレクでさえ、傑の要求についていけてなかった。


そこで前半は終了。相手チームはもちろんのこと、傑のパスを受け続けることになったアレクたち自チームのメンバーもその場でへたり込んだ。


「ははっ。最高だね」


一人笑っていると、傑がエリクに近づいてきた。


「エリク。後半戦から昨日言ったことしてもらう」


「後半からでいいの?」


「ああ、前半は様子見だったが、全員の癖は覚えた。エリク達DF陣に後半は、完封してもらう。頼んだぞ」


エリクは無断で頷く。

(サッカーやるとここまで、人が変わったように・・・)



前半が終わった後、監督と経営陣は、驚きで声を失っていた。


「これほどとは。あの時より精錬されているじゃないか」


ダーナは傑の実力を思ったより下に見ていた。

何せゴールデンエイジを無駄にしたのだ、技術はあっても体の変化にはついていけないと思っていた。だから、しばらくは今の体に慣れさせ様子を見るつもりだった。


(そんなレベルの話しは彼には通用しないかっ)


いまだに驚愕に包まれている経営陣に振り返り、こう言った。


「どうです、彼は?私の元に来てくれた最高の贈り物です」














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