第6話 怒涛の日々と

”スペイン語話せる?”


いきなり、本当にいきなり、そんなことを聞いてきた。


「は?スペイン語?そんなの話せるわけないじゃん」


今まで英語もろくに話してこなかった人がいきなりスペイン語を話せるか聞かれて、

”話せる”と答える人なんてほんのひと握りだけだ。


「てかなに?スペインに行く予定でもあんの?」


「うん。来週から」


「来週!?なんでそんな」


あまりにも急すぎるし、今まで見たこともないような楽しげな雰囲気で話されて、

もう何が何だか。


「傑。私は仕事があるから、付いていかんぞ」


「わかってる。だから・・・・」


そう言って傑は遥を見る。

遥は嫌な予感がした。


「遥。一緒に来てくれ。頼む」


「うん。いいよ」


まじで!?と、隣を通しすぎる遥に振り向きながら放心する傑をあとに、遥は自分の部屋に行った。


「ほう。これはこれは・・・・」


傑の後ろでは美咲がニヤニヤしていた。





遥は部屋に戻り先ほど自らが言い放った言葉を反芻していた。

「うん。いいよ」って何?


なんで即答?


なんで二つ返事?


なんで了承した?


なんで・・・・?


『なんで?』という言葉が頭の中を駆け巡る。


そして、自分の心臓の音がうるさいことに気がついてしまった。


(え?うそ。。うそうそうそうそ!!なんで!?)


頬を触ると、手のひらに熱が伝わってくる。


(ちがうちがう。これは夏だから。夏だから・・・・)


しかし、いくら言い聞かせても心臓はうるさいままだし、、頬も熱いまま。


(私たちは、兄妹。私たちは、兄妹。私たちは、兄妹。私たちは、兄妹。私たちは、兄妹。私たちは、兄妹。私たちは・・・・・)


そして行き着いた。わかってはいたが意識していなかったところに。


(私たちは、兄妹・・・・)


その日、傑とは目を合わせることはできなかった。




スペインに行くと決意した傑は、ある人に連絡をとっていた。スペイン語で。


「もしもし。今大丈夫ですか?」


「おー、久しぶり。


「今は、スグルですよ。恩人につけてもらった名前です」


「お〜、そうだったな。元気してたか?」


「はい。なんとか」


軽く挨拶をした後本題に入った。


「それでいきなりどうしたんだ?」


「はい。実は・・・・」


軽く経緯を話した後、スペインに義兄妹を連れて行くことにしたと言った。


「ということは、戻ってくるのか、サッカー界に」


「はい。そろそろ前に進むべきかと思いまして」


「そうか。ならうちに来い。最高のお出迎えをしてやる」


「ありがとうございます!では、来週の・・・・・・」


それから長々と思い出話や他愛のない話に花を咲かせ、日付を越したところで電話を切ることにした。


「では、楽しみにしてるぞ。スグル」


「はい。お世話になります。




それから傑と勢いで決めてしまった遥は、その勢いのまま退校手続きをして、お世話になった友人に挨拶に行った。


猛にスペインに行くことを伝えたときは、急すぎると怒られたが、親の都合と言うことでなんとか収まった。


今まで、サッカー嫌いを散々出していた奴がいきなりスペインにサッカーをしに行くなど言えなかったため、時期を見て本当のことを話すことにした。


遥とその友達は、突然すぎたため泣きながら別れを惜しんでいたが、傑への気持ちに気付きつつある遥は、意思は固かった。




そんなこんなで出国の日。平日ということで、見送りの人はあまり来ていなかった。


来ていたのは、美咲と五年前にお世話になり、それ以来も付き合いのある人たちだ。


「頑張れよ。あいつらのことは気にせずな」


「はい。お世話になりました。さん」


今までとちがう呼び方の意味に気がついたのは、遥意外の女性陣だけ。


「ああ。任せたぞ?」


「はい。必ず」


会話の内容についていけてないのは遥だけ、他のみんなはニヤニヤしていた。


「みなさんもお世話になりました」


「うんうん。こっちのことは気にせず楽しんでおいで」


一人の女性がそういうとみんな頷いていた。


「そろそろ時間だ。行こうか、遥」


「うん。じゃ。行ってきます。お母さん」


「おう。行ってらっしゃい」


こうして二人は、搭乗手続きを終え、スペインへと旅立った。




そんな二人を佐伯は遠くから見ていた。


「スペインか。あの人がいるな」


そういうと携帯を取り出し、ある人に電話をかけた。


「ああ。さん?実は・・・・・・・」




〜第1章 復活する悪魔〜

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