転校生とストーカーに悩む俺の話

転校生が理想の美少女だった俺

 すっと誰かが顔を耳元に寄せてくる。


「イツキ君」

「ん……、マキちゃん……?」


 あぁ、これは夢だ。だって、マキちゃんは銀髪じゃないし、もっとこう出るところが出ていて……、じゃあこれは誰だ? 俺を樹君と呼ぶのは他に誰かいたかな?


「もうすぐ会いに行くね」

「は? 誰だ」

「忘れたの? 大きくなったら…………」


 がばっと布団をはねあげる。


「いや、誰だよ」


 アバターのミツキのような水色っぽい銀の髪。ゆるいウェーブのかかった肩までの長さ。すぐ側まで近づいてきた、ピンク色の唇。


「いや、誰だよ!」


 ミツキが画面の外にでも出てくるっていうのか?

 朝から何の夢見てるんだよ。

 スマホの画面を見るとマキちゃんからメッセージが届いていた。今日は先に行っていますという連絡だった。

 俺は急いで返信して、朝御飯を食べるためにダイニングに向かった。


 ◇


「転校生の川井かわいマリヤさんだ」

「よろしくお願いします」


 教室がざわざわと盛り上がる。そりゃあ、こんな可愛い色素の薄い銀髪の美少女が転校してきたらびっくりするよな。肩までの長さの髪は天然だろうか、ゆるやかにウェーブがかかっていてふわふわしている。

 瞳の色は黒色。すごい美人だ。


「ハーフよね? すごい綺麗な肌」

「よろしくー! マリヤちゃんって呼んでもいい?」


 さっそくクラスの人気者なマリヤは根掘り葉掘り色々と聞かれている。


「彼氏は?」

「登録名教えてー」

「あ、日本語わかるの?」

「大丈夫。わかるよ」


 まあ、俺には関係ない話だ。俺はちらりと見ていた視線を目の前の男に戻した。


「彼女に怒られるぞ」

「いや、何の話だよ」


 我が友だったり敵だったりするユウキはもくもくとパックジュースを飲んでいた。ずごっと最後の一滴が終わった音がする。


「ハーフ転校生。お前の好みど真ん中じゃないか?」


 あぁ、確かに。理想の美少女ミツキに良く似た感じがする。小さめの身長、柔らかそうなピンク色の唇、大きくてくりっとした瞳。何より銀髪。


「銀髪はいいものだ」


 うんうんと頷いていると、ユウキがすっとスマホを取り出した。


「おい、ユウキ。何をするつもりかな」

「ナミちゃんにつげぐ……おっと、報告」

「どっちも一緒だろ、というか俺をダシに妹にメッセージいれるんじゃねーよ!」


 ユウキとナミの関係は進んでいるのかいないのか知らないけれど、それなりに頑張っているようだ。

 ナミちゃんなんて呼んでるのか。許可をとって連絡先を教えてやってから話したりはしている感じだ。

 なんだろう、上手くいってもいい気がするが、え、コイツが義弟になる日がくるのか? と葛藤もする。本当にいいのか?


「ねぇ?」

「わぁ!!」

「はい?」


 考えていると、話題の彼女、マリヤが俺の後ろから話しかけてきた。


「イツキ君だよね?」

「え、え?」

「めっちゃ久しぶりーーーー!!」


 首に抱きつかれた俺は息が一瞬とまり、それを見ていたユウキはスマホの文字入力をすごい勢いでしていた。

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