教えその14 趣味ならしょうがない

「そうかよォ、ネヴィリーンは街にはいねェか……」

「ウチの妹弟子もいなくなったみたいで。魔導で占ってみましたが、どうも街から出た様子ですから、こっちも追いかけてみようと思います」


 辺境都市カスタノは、復興をはじめていた。

 聖術を展開し、魔物と魔導で作り出された軍勢を消し飛ばした故に、そこまでの被害は無い。

 結局、この街を襲いに来た連中も少人数で、大神殿が焼けた以外に大した被害も出さず奴らは姿を消した。

 ネヴィリーンや、彼女を守る為についていたサリャカも、どこへなりと姿を消した。

 アリルは憮然とした顔で状況の把握をゴッドブレスジャガーと話していた。


「……敵は逃がしたかァ」

「まぁ……そうですね」

「クソが。全員くびり殺してやるつもりだったのによォ」

「だからそれ神官のセリフじゃないって」

「だがよォ……テメェらが俺様のとこに来たのは、ここで勝負決める為だって訳だろうが。それがどうだ、どこもかしも手玉に取られてこのザマよォ!ヒャア!血管ブチ切れそうだぜ、俺様はよォ!!」

「こわいんですよ。顔が特に」

「あ、それなんですけど」


 クタラトが控えめに手をあげて二人の話に割り込む。

 疑問符をあげた二人の目の前に、クタラトの横にいたレツが一人の男を放り投げた。

 “剣鬼”ヘイムディン、その人である。

 だが彼の目は焦点があっておらず、口からはうめき声をあげるだけだ。


「で、どうでしたレツ」

「兄弟子よ、確かに自分は便利に魔導が使えるかもしれないが、廃人の頭探るのはめっちゃ疲れるんだ」

「焼ける前に助けてあげたでしょう」

「くっ……ありがとう、死ぬとこだった」

「どういたしまして」

「で、結局なんなんだよ!!このおっさんが何!?」


 脱線しまくった話にアリルが叫んだ。

 クタラトがきまり悪そうに頬をかいて


「この人、敵組織の人間です。ネヴィリーンを狙った一派ですよ」

「なんだとォ……!?この……見るからに人間としての機能をぶち壊された男が……敵組織の連中は何て非道な行いをしやがる……」

「あ、それはボクがやったんですけど」

「聖職者としてはァ、見るにたえねぇなァ!これだから魔導師はよォ!?」

「お前が言えた事かぁ!!??あと一括りにするんじゃねぇ!!……で?何?あれか?頭ん中を覗く奴か?」

「そうです」


 クタラトは幻術の魔導の使い手だ。

 幻術とは相手にそこに無い物を見せる技だが、その中の一つに相手の脳内に直接魔導を叩き込んで幻を見せる術がある。

 つまり、対策をしていない相手であれば、相手の頭の内に触れる事もできるのだ。

 その応用を使い、クタラトは敵の記憶を読む。

 欠点は二つ。

 使った相手が必ず廃人になる事と、多用すると自分の記憶と読んだ記憶がまじりあい人格が崩壊する危険がある事だ。

 その為、クタラトは意識がはっきりしている相手の必要な情報以外の記憶を読まない。自分が自分でなくなる可能性があるからだ。

 その点で言えば、レツは人格崩壊の危険性とは無縁なので相手が廃人だろうと遠慮なく全て読めるが、それはともかく。


「大司教」

「あァ?」



「“二つの心臓を持つ者ダブルハート”って、一体何の事です?」



 ***



「簡単に言えば、神の依り代だ」

「依り代……?」


 夜の闇の中で、パチパチと焚火の音がする。

 聞こえるのは、サリャカと若いが渋く響く男の声。


「そうだ。ネヴィリーンには心臓が二つある。元々自分の物である心臓と、そして闇の女神の心臓だ」

「闇の女神?ネヴィリム様の事?」

「ああ。こうした人間は、歴史上に度々現れる。ある時は勇者として、ある時は聖女として、ある時は魔王として名を残す。彼らは全て、神の心臓を持って生まれて来た」

「それが……ネヴィちゃんが狙われる理由?」


 全裸にクソデカローブを着ただけの男は、焚火に乾いた枝を追加しながら頷いた。


「神の依り代、あるいは器。呼び方は何でもよいが……神の心臓を身に抱く人間は、その身体を使って神を甦らせる事ができるのだ」

「でもそんな……神様なんて御伽噺じゃん?」


 パチリ、と焚火が大きな音をたてた。


「神話の時代の神々は存在する。光の女神サーシャリアも、闇の女神ネヴィリムも、事実として世界に在った。彼女たちは眠っているだけで、条件が揃えば再び世界に降臨する」

「それはわたくしが……闇の女神ネヴィリムとなる、という事ですか」


 サリャカとローブの男が、声に反応して顔を向けた。

 眠っていたネヴィリーンが今は目を覚まし、身を起こして二人を見やった。

 彼女の問いに、ローブの男は


「聞いていたか……今は問題ない。その首にかけたロザリオのネックレスが、今は心臓を封じている事だろう」

「これは、教団の……?」

「聖具だ。光の女神の御業を模倣した聖術がかけてある。多少だが闇の女神の意識が抑えられるはずだ。だが気をつけろ、闇の女神の意識や思想に近づけば、すぐにでもネヴィリムに意識の主導権を奪われるだろうからな」

「闇の……女神」


 首からかけられた数珠紐が胸元に流れ、そこに銀色の十字架があった。

 ネヴィリーンは、ロザリオを握りしめる。

 彼女は、ふと問いかけた。


「何故そのような事を知っているんですか?あなたは一体……」


 白い肌と金髪、赤い瞳をフードの中から覗かせる男は言った。


「私の名はネイクド。レガリア帝国、第3皇位継承権保持者だ」


 ネヴィリーンは、さらに問いかけた。


「何故ローブの下は裸なのですか……?」

「趣味だ」

「言ってる事変わってるけどぉ!?」






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