イカれ賢者の5人弟子

第一章 忌み名の皇女

教えその1 厄介事ってのは大体身内が持ち込む

 賢者エイヴと呼ばれる者がいる。

 賢者とは、魔導師の中でもさらに優れた魔導の技を修めた者達に与えられる敬称であるから、並大抵の魔導師では無い。

 さらに言えば、帝国の大多数の人間にとってほぼ御伽噺の登場人物と同じような扱いである魔導師の中でも、例外的に名の知られた人物でもあった。

 彼は先の帝室戦争における立役者で、現皇帝を擁立し、先代皇帝を討ち果たした英雄である。

 暴君の中の暴君と呼ばれた先代皇帝を討ち、帝国の影をはらった事実は、民衆や権力者にも人気が高い。


 ただ、他に賢者と呼ばれるほどの魔導師からは、先代皇帝の統治下において一人で戦争をおっぱじめたイカれ野郎として認識されている。

 銃兵器における最先端軍事国家である帝国に喧嘩を売ったのもそうだが、そもそも魔導師とは俗世に関わらないから人々に知られていないのである。

 それが大陸の覇者たる帝国の一派閥に与して派手にやっちまったもんだから、それはもうすこぶる評判が……


 良い。


 良いのだ。何故か。

 ジメジメとした森の中で何年も日も浴びずにいた隠者なんかは、報を聞く度に「もっとやれ!」などと叫んでいたものだし、先代皇帝の居城で決戦のあった日には「叩き潰せ!」コールが魔導師の塔中で響き渡った。

 それはどうなんだとは思わないでも無いが、だからこそ彼らは魔導師なのかもしれない。



 さておき。

 そんな彼には5人の弟子がいた。


 直情的で単純だが、情に厚くお人好しの姉役、一番弟子サーナ。

 最も常識と機転を持つ、苦労人気質の青年、二番弟子アリル。

 冷静さと正義感、そして愉快犯的思考を同居させる少年、三番弟子クタラト。

 豊かな感性と強気さを併せ持つが、それ故に繊細さを抱える少女、四番弟子サリャカ。

 賢者エイヴのおっかけをしていたらいつの間にか弟子入りしていた少年、五番弟子レツ。


 魔導師が取る弟子にしては多い方だ。

 賢者エイヴは、ことさら弟子を可愛がっては、千尋の谷から一緒に落ちる様な真似をして、弟子達に秘儀の魔導を授けるらしい。

 はた迷惑な師匠である。

 が、師匠である彼がこんなもんだから、5人の弟子もまた個性的……いや、やはり師匠と比べるとまだ常識的かもしれない。

 ともあれ、これはそんな賢者エイヴの弟子達が、仲良く厄介事に巻き込まれる……

 そんな物語だ。



 ***



 晴れた気持ちの良い日の事であった。

 その日は、この賢者エイヴの屋敷では特に何事も無く、5人の弟子はいつも通り魔導の研鑽に励むだけになるはずだった。

 なるはずだったのだが、賢者エイヴの四番弟子であるサリャカの目の前には、少女が床に倒れていた。

 綺麗な金髪が床に流れ、肌は白く、目を閉じたその顔は人形ともつかぬ美貌。

 そしてこの少女は、一番弟子のサーナが担いできたのである。

 状況証拠、オッケー。

 なのでサーナに対して、サリャカはこう言った。


「遂に殺っちゃったんだな姉弟子……」

「いや違うよ!?まだ生きてるから!!ほら見て!?脈もあるし!心臓も動いてる!」


 聞けば少女が賊に襲われてるのをたまたま目撃してしまい、少女が気絶させられたのを見て憤慨したサーナが助太刀。

 そのまま賊をボコボコにして、少女を連れ帰ってきたのが顛末と言う事らしい。


「てゆうかこの子にこそ襲われる理由が十分にあって、賊の方が正しい言い分だったらどうすんの?」

「え、やー、それはほら……その時考えるというか」

「ダメじゃん」


 とはいえ話を聞く限り賊の方に正義があるとも思えない。

 倒した賊については、三番弟子であるクタラトが後処理に呼び出されてるらしいので、心配いらないだろう。

 即日で衛兵に突き出されてるはずだ。

 サーナは助けた少女が目を覚まさない為、治癒の魔導が得意なサリャカを呼び出したのだとか。

 言われたサリャカはとりあえず倒れた少女を介抱しつつ、診断と治癒の魔導を唱えていく。


「うーん、毒とかでは無いね。気絶の呪いがかかってるぽい」

「お、解けそう?」

「解けるよー」


 パチン、と弾ける様な音。

 魔導師の一番弟子であるサーナは、その瞬間に呪いが解けたのだけは良く見えていた。

 人形の様な少女の瞼が微かに動き、ついでゆっくりとその目を開いた。

 少女の瞳は真紅の色をしていて、白い肌とあいまって一層人形らしさを感じさせる。

 少女の瞳は、状況を把握する様にキョロキョロと動いている。

 さてはて、それを見たサーナは


「大丈夫?痛いとことか無い?」

「え、あ……え?」


 少女はどうにも混乱しているらしく、どう答えていいか分からず首を傾げた。


「混乱してる?」

「そりゃ、襲われたと思って目が覚めたら知らない場所にいるからね。あ、あたし達は敵じゃないよー。こっちの姉弟子が賊からあなたを助けました!」

「襲ってた賊はもういないからね!全員ぶっとばしたから!」


 サーナとサリャカの二人が、そうして少女に状況を伝えていると、賊を衛兵に引き渡しに行っていたクタラトが屋敷に戻ってくる。

 であればと、サーナは口を開いた。


「よし、じゃまず自己紹介しよ」


 金髪の少女は、ゆっくりと頷いた。


 

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