第7話

 楓は、わざと口を開かずにブスッとした態度を八木の前でして見せた。

 M女の挨拶もしなかった。黙ったまま、道具の類いをテーブルに並べていった。八木は、キョトンとした顔で楓の動きを見ていた。

 道具を並べ終えると、黒く長い黒髪を八木に見せて、背中を向けて床に正座をした。そして、そのまま動かないでいた。八木も黙ったままだ。静かな空気だけが行き来して時間が過ぎていく。しびれを切らしたのは楓だった。

「なんとかおっしゃってください、ご主人さま」

 このまま、いつまで沈黙が続いてしまうのだろう、プレイ時間が削られていくのが嫌だった。

「プレイをなさらないんですか?」

 返事がない。どうしたというのか。逆に気分を損ねてしまったかと、楓は焦った。八木に向き直り、

「ご主人さま、ご調教よろしくお願いします」

 M女の挨拶をして床に額づいた。

 すぐに返事はなかった。しばらくして、

「何だ、今の態度は。奴隷にあるまじきたいどをとるんじゃない!」

 怒鳴られた。怒りに震えた声に加え、額づく背中にバラ鞭飛んだ。楓の体が揺れた。

「お許しください、ご主人さま。寂しかったんです」

「聞いてもいないのに、余計なことを言うな。ここに来るのは、私の勝手だ。奴隷の知ったことではない」

 また打たれた。そして、

「仕置きだ。肌を鱗で埋めてやる」

 楓は、ベッドに、仰向けにされて大の字に縛りつけられた。仏壇蝋燭の熱い蝋が、楓の肌を白くしていき、楓は、「熱い!熱い!」ともがき苦しんだ。上からたらたら、垂れ落ちる蝋から逃れようとするが、手首、足首を咬んだ縄が許さない。体が蝋まみれになるまで肌に垂らされ、ようやく縄が解かれた。でも、それは解放するためではない。背中に向きなおさせて縛りなおすためだった。

 気の遠くなるような長い時間だった。ずっと、熱い蝋を垂らされて、魚の鱗同然にされた。隙間なく、肌が蝋に埋め尽くされた。

 そうして、蝋燭の炎が吹き消された時、楓の耳が達彦の吐いた息を捉え、それと同時に楓の張り詰めていた気持ちが抜け落ちた。

 疲れきっていた。その体から蝋が剥がされていく。楓は、されるがまま。じっとして動かなかった。眠りたい気持ちだった。

 いきなり、体が重くなった。背中に、八木がかぶさってきたのだ。八木の手が、楓の柔らかい乳房をわしづかんだ。

「ううう」

 呻いた。喘いだ。

「うっ!」 

 痛みが走った。乳首をつままれたのだ。

「うううっ」

 指に力が入り、強まっていく。堪らず叫んだ。  

「痛い!」

 涙がシーツを濡らした。

「仰向けになるんだ」

 縄がすべて解かれ、天井を見上げた。八木の顔が天井を見えなくした。唇を重ねられ、キスをされた。

 忘れかけていた包容。心地よさに酔い、楓は果てた。

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