第4話
翌日、ホテルを訪れると、八木は穏やかに楓を迎えた。
「また、来たよ。よろしく」
にこやかに笑う八木を見て、ほっとする楓。
「よろしくお願いします」
シャワーを浴びさせてもらい、再び八木の前に。楓は、昨日の鞭が頭にあるので不安が先に立った。まともに八木のことが見れなかった。
すると、
「キスしようか」
言われた。
「キス、ですか…?」
「うん。だめかい?」
楓は戸惑った。
昨日の八木は無口で怖い顔を顔をしていた。許しを乞うても、これが返事だと言うように何度も何度も繰り返し鞭打たれた。きつく、つらい鞭が、楓の頭からずっと離れなかった。再び八木の前に立つのが怖かった。
「昨日は、怖い想いをさせてしまったようだね。店長から聞いたよ、ごめん」
八木は、優しかった。昨日の八木が嘘のようだった。
「いきなり鞭の洗礼はきつかったかな?でも、いずれはきつい責めを受けることになるなら、ぼくの手で教えたかったんだ。楓をぼくがM女に育てる、育てたいと本気で思った」
だめかい?
訊かれて、楓はすぐに返事ができなかった。楓は縄が好きだった。縄で体を縛られることが。他のことはあまり深く考えていなかった。八木に言われて考えが浅はかだったと、今さらのように気づく楓だった。
できないプレイはできないと、はっきり口にしていいと、店長から言われていた。でも、何もかもが初めてのプレイ。何ができるのか、何ができないのか、楓には分からなかった。すべてが未体験だったから。
どう、返事をしたらよいのか。こんなとき、"お任せします"とか、あまり考えすぎずに口にできたらどんなに楽だろうと思う楓だった。
お店の先輩は、八木さんをどうとらえているのか、聞いてみようと思った。プレイを経験した先輩M女さんもいるはずだった。
「それで?キスしていい?」
話がまた変わった。楓は、戸惑いながらも八木のキスを受けた。そっと、唇に唇が触れて、何か甘い味を感じた。
なんだろう、この甘い感じ。
知りたいと思った。十歳以上離れた年上の男性のキスは初めてだった。それも、恋愛でなく、風俗の仕事の上でのキス。
と、楓は手首を掴まれ背中に回された。そうして一つにされた。
(!?)
ハッとしたが、八木が、耳元でじっとしていてと言うのでそのままになった。縄が、手首に巻かれていき、背中で動かなくなった。ささやく声がした。
「また縛られた。ぼくの言うこと、することに従うしかないね」
優しい息が耳にこそばゆい。でも、言葉は緊張を呼び起こした。昨日の鞭打たれた記憶がよみがえる。
唇から唇が離れ、縄が胸に回った。胸の上をゆっくりと這った。肌を押さえつけ、縄はきつく胸を締め付けた。
「うう」
きついです。
思わず漏らした言葉。
「きつくしているんだよ」
即答で返ってきた。その返事で、鞭の記憶がさらに際立った。不安が体を駆けた。
何をするんですか?
訊きたかった。でも、口にできなかった。
ご主人さまのすることに口を挟むな、言われているのだから。
縄が足されて胸を挟む。足された縄も、またきつく肌を押さえつけた。
やがて縛り終え、楓は、縄尻を柱に繋がれた。姿勢は正座。床に目を落とす楓。うなだれた。
縄の力。縄が体に入ると、自然とうなだれた。どうすることもできない諦めの気持ちにさせられる。それに、濡れた。あそこが、じゅわっと湿って濡れていた。恥ずかしく、下を向いた。
「さあ、調教を始めよう。今日は、どれにしようか」
テーブルに並べられた道具の一つ、ひとつ。
「これにしよう」
八木の声が耳に届いた。楓は顔を上げ、目を向けた。
「先ずはピンチを使おう。耐えられるかな?」
八木が楓に振り向いた。目が合う。楓は、さっと顔を伏せた。
「でも、少し緩いね」
お店のピンチは、肌を傷つけないようにバネが緩い。
「ぼくのを使わせてもらうよ」
八木のピンチは、涙がにじむ痛さだった。いつまでも痛みが止まらない。
「ああ❗」
呻く、泣き叫ぶ。
八木は、そのまま放置した。もがくと余計に痛みが増した。八木は何もしない。見つめるばかりだ。
そのうちに、涙がこぼれ落ちた。
「うう❗あ、ああう❗」
八木は助けてはくれない。何も言ってもくれない。いったい、いつまで挟んだままにしておくのか。出口の見えない。どこまで耐えられるのか。乳房が千切れそうに痛んだ。
そして、それは不意にやって来た。
八木の手がピンチに伸びて乱暴にはずした。
「あうっ❗」
ひどく痛んだ。思わず体がうねった。もう一つも、同じようにはずされた。
「ひいっ❗」
悲鳴が轟いた。涙が飛び散った。苦しく、息が荒れた。
その場に崩れ落ちた。乳首がしびれ、触れるのが怖かった。
床に横たわる楓の肌をめがけて、たらたら、たらたら、熱い蝋が垂れ、彼女を苦しめた。逃げようがなかった。
背中に赤い鱗をまとい、ようやく炎が吹き消された。
縄がすべて解かれ、ベッドに。八木に抱かれた。厳しい責めとは裏腹に、包み込むような優しさがにじみ出た。体が熱く火照った。
「ください」
口にしていた。
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