第2話
入店一日目。三人のお客がついた。縄で縛られてみたかった楓は、最初のお客さまには特にがっかりした。まごまごしていつまでも迷い、一度縛った縄を解いては縛り直し、途中、考えてなかなか縛り終えない。結局、縄を諦め、白い革の枷で拘束された。
苛立って、最初から枷を使え!と言いたいところだけど、相手はお客さま。声を荒立てるわけにはいかない。でも、その日、テンションが低く、仕事が楽しくなかった。
店長は、そんな楓を気遣い、二日目、彼女の気がパッと晴れるお客様をわざわざつけてくれた。
八木達彦、大手電気企業の取締役で三十八歳。独身だった。
八木さんは、店長の話では髪の長い黒髪の女性が好みだと言っていた。きっと気に入ってもらえると思うよ、そう言われて送り出された。
楓は、お尻まで伸びた黒髪だった。髪の手入れは毎日大変だったが、艶のある髪は自慢だった。街を歩いていると、多くの目線を感じた。一度は、後をついて来た男性に髪に触れられ、そのまま走って逃げられたことがあった。
八木は、お店のある街のホテルで楓を待っていた。
どんな長い髪の持ち主が現れるかとワクワク、ドキドキしていた。
楓を部屋のドアの向こう側に迎えたとき、八木は、長い髪にしばし呆然と立ち尽くした。
「中に入ってもよろしいですか?」
訊かれるまでずっと。
ようやく中に入ることを許され、挨拶。
「楓と申します。よろしくお願いします」
額を床に着けての挨拶。
「ああ、よろしく」
ストレートな髪がそのままに、床に広がった。八木は、胸がときめいた。「綺麗だ」
額づいた頭を上げると、楓ははにかんだ。
「ありがとうございます、ご主人さま」 髪を褒められるのは嬉しい。
八木は、髪に触れていいかと訊いた。
「どうぞ、ご主人さま」
八木の手が髪に触れ、優しく上から下になぞった。
「いい香りだ」
シャンプーしてきてよかった。楓は微笑んだ。
プレイ道具をテーブルに並べた。
麻縄、枷、バラ鞭、蝋燭、浣腸用の注射器は布に包んで。猿ぐつわの手拭い。
並べ終えると、ご主人さまの許しを得てシャワーを浴びた。その間、八木は、少なくなった梁に、縄を巻いて準備をした。
プレイは、縛りから始まった。
ベッドに正座をして手を後ろに回して組んだ。縄が、手首に絡まる。きつまると、それで自由をなくした。余った縄が胸の上を這った。裸の乳房が揺れた。しっかりした縛り、楓は感じた。背中で引き絞られ、きつまった。
「うっ」
胸が苦しく思わず呻いた。八木は、反応なく無言だった。縄が足され、胸の下を縄が這った。上と同じ、きつい縄だった。
縄がさらに足され、背中に繋がれた。そこから上に伸びて梁に巻いた縄に通し、背中に戻ってきて吊り上げられた。
「うう」
胸を縛った縄がさらにきつまって、楓は一層苦しげにうめいた、顔をゆがめた。それでも、八木は無言だった。楓は、表情は苦しげでも、内心、ほくそえんだ。
(これだ)
この縛り、私が待ち望んだきつい縛り。麻縄のきつさが心地よかった。
「笑ってるんだね。縄、好きなの?」
無言で縛っていた八木に訊かれた。
「はい。好きです」
「怖くないの?初対面のぼくが。そこに並べた道具を使って今から楓を責めるんだよ」
縛られ、繋がれた楓は逃げられない。八木に何をされてもどうすることもできない。それでも、楓を縛った縄が、彼女は嬉しかった。初めて心に感じた、響いた麻縄だった。
楓のあそこが湿って濡れていた。
楓はこのとき、八木の本当の正体、そして、半年後に起きる身の危機を知るよしもなかった。
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