第20話 終わりはいつも唐突に
「スゥゥー…。」
幾度となく深く息を吸い、吐く。
自身を落ち着かせるように、鼓舞するかのように。
自身の中に眠る魔力を練り上げ、練り上げた魔力を腕に集中させる。すると、腕から魔力で生成した武器が出現する。
その武器は槍の穂先に斧頭、その反対側には刺突用の鉤爪が取り付けられている銀色に光沢を帯びるハルバードだった。
私の一回り大きいハルバードは、私が特殊体質でなければ持てないほどの重量だ。しかし、今の私であればこの武器を持つことができる。
魔力は平均的な量しかないが、この特殊体質のおかげで強敵とも渡り合うことができるらしい。
魔力に依存する戦術は魔力が底を尽きると形勢が悪くなるが、この特殊体質は勇気という感情を持ち続ければ長期的な戦闘を可能にできる。
彼女を守ることを考えるといくらでも勇気が湧いてくる。
勇気を力へと変換し、飛躍的に向上した身体能力でハルバードを構える。
「…貴様か。一人増えた所で大した変化はない。」
アリアゴールは私が戦闘態勢に入るのを見るや否やそんな事を呟く。
感覚を研ぎ澄ます。
間合いを詰めるために地を目一杯に蹴る。
「――ッ!」
アリアゴールは思わず眉を顰める。
侮っていたのか私の斬撃に反応が遅れてしまい、片腕がハルバードによって切断される。
私はその隙を逃さずに次なる攻撃を加えるためにアリアゴールを両断する為に力一杯にハルバードを振り下ろす。
「なるほど、大した身体能力だ…≪
アリアゴールは一瞬だけ動揺したようだったが、直ぐに平静になり魔術を唱える。
彼の真下から術式が出現し、切断面から腕が生えてくる。そして、両腕から手甲剣のように手の甲から剣が伸びる。
彼は出現した剣でハルバードの斬撃を受け止める。
ギィン!と鈍い金属の衝突音が響き渡り、風圧が周りにいる彼女達を襲う。
「くっ…!」
アリアゴールは涼しい顔をしながら、ハルバードの斬撃を物ともせず受け止めた剣身で受け流す。
透かさず彼は私に対して反撃する為にもう片方の手甲剣で斬撃を繰り出す。
私はその動きを見逃さずに斬撃をハルバードの柄で防御するが、彼の膂力によってそのまま退行させられる。
態勢を瞬時に立て直し、反撃に備えるが彼の動きがピタリと止まる。
「…。」
アリアゴールの真下から茨のような無数のつるが彼に絡まり動きを封じていた。
振りほどこうとつるを力任せに引きちぎるが、次から次へとつるが絡まる。
何が起こったのかを理解する前に後方から声を掛けられる。
「…≪
振り向くと佳織ちゃんが困惑した顔で途中から言葉がたどたどしくなる。
私を信じて良いのか良くないのかが分からないといった顔だった。
彼女は元々自分の思っていることが顔に出ることもあった。
その心境に懐かしさを覚えつつも気を引き締める。
「うん、わかった。ありがとう!」
私は彼女の助言に答えて、再度戦闘態勢に入る。
アリアゴールは拘束するつるに対して煩わしく感じたのか、彼女の方へと睨むような顔になりながら吐き捨てる様に言葉を発する。
「…本当に目障りだ…やはり貴様から最初に潰すべきだな…≪
アリアゴールは無数のつるに拘束されながら魔術を唱える。
佳織ちゃんの真下から術式が出現し、その術式は黒く変色する。
黒く輝く術式から無数の
彼はそれを目視で確認すると片腕の手甲剣を引っ込め、指が長い鉤爪へと変形する。
鉤爪を使い、自身に絡みつくつるを次々と切断していき、残ったつるは引き千切っていく。
藻掻く彼女目掛けて地を蹴り、目にも留まらぬ速さで彼女に近付く。
このままだと彼女が殺されてしまうだろう。そんな事は絶対にさせない。
彼女を亡き者にせんと鉤爪を思い切り身動きが取れない彼女に向けて振りかぶるが、追い着いた私のハルバードの柄によって阻まれる。
彼は舌打ちをし、私の攻撃を回避しながらバックステップをして間合いをとる。
「大丈夫!?」
「大丈夫です……あ、ありがとう…ございます…。」
彼女を拘束する人形の腕をハルバードで薙ぎ払い、肩を掴み安否を確認する。
一瞬私の様子に驚いたような顔をしたかと思えば、視線を逸らし少し頬を赤らめながら感謝の言葉を述べる。
彼女に怪我がないことに安堵して、思わず抱き着く。
「よかった…!本当に…!」
「え!?ちょ…!」
彼女は私の行動を予想だにしていなかったのか困惑した顔をしながら頬を染める。
こんな時にこんなことを思うのもどうかと思うが、彼女からいい匂いがした。
「あっ…ごめんね…。」
「い、いえ、別に…。」
ハッと我に返り、すぐに離れて彼女に謝罪する。
てっきり怒鳴られるのを覚悟していたけれど、意外にも怒られることはなかった。
彼女は困惑しながらこちらの方をチラチラと見ていた。
「茶番はうんざりだ…そろそろ死ね。」
アリアゴールはその光景を見て、うんざりした様子で溜息交じりに言う。
凄まじい速度で私との間合いを詰めると彼は長い鉤爪による爪撃を繰り出すが、ハルバードの斬撃で相殺して反応する。
その攻防を繰り返していると、後方にいる彼女が魔術を唱える。
「≪
アリアゴールの真下から無数のつるが彼目掛けて伸びていくが、それを避ける様にして俊敏に動き回る。
無数のつるが至る箇所から彼を拘束しようと伸びるが、彼は何食わぬ顔で避け続ける。
「馬鹿の一つ覚えだな…次も当たると思っているのか?」
「そんな事わかっていますよ。本命は別です。≪
私は彼女の策を直感的に理解していた。だからこそ、その好機が来るまでじっとしていた。
彼女が魔術を発動すると、私の周りが光に包まれ転移する。
転移した場所はアリアゴールの後ろだった。
その一瞬の隙を逃さずに、彼の背中目掛けて全身全霊の一撃を与える。しかし、その攻撃は通ることはなかった。
避けられない死角からの攻撃だったはずなのに、片腕の手甲剣を背中側に回して受け止められる。
「なっ…!」
彼は私の方を一切見ずに私の攻撃を背中越しで防いだ。
その事実に言葉にならないほどに驚愕する。
その隙を見逃さなかった彼は瞬時に振り向き、手甲剣がある方の腕で私の首を掴んで持ち上げる。
「未熟だな…貴様もあの人形も。その程度で、我に勝てるとでも?思い上がりも甚だしい。」
私はハルバードで必死に藻掻こうとするが、鉤爪によってハルバードが弾かれる。
首を絞める力が強まり、上手く息が出来ずに意識が飛びそうになる。
早く振り解かなければと考えるが、その考えに反して抵抗できる力が抜けていく。
「かはっ…!」
アリアゴールは私の腹目掛けて鉤爪を突き刺す。
刺された瞬間、壮絶な痛みが全身を駆け巡る。
脳が痛みでいっぱいになり、何も考えられなくなる。
あまりの激痛に気絶する。
最後の光景は彼の肩越しに見えた駆け寄ってくる佳織ちゃんだった。
「まず一人目…。」
アリアゴールは
ドサッという音が一段と虚しく響き渡る。
転生したら神人形だった~人間嫌いの私が人の為に戦わなければならないようです~ ヤギネギ @yaginegi
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