第18話 神代魔術

「≪転移テレポート≫か…?それにしては術の発動が早い…。」


 アリアゴールは一歩ずつ、一歩ずつ、私達の元へと歩みを進める。

 ロサもサラも構えを取り、術式を展開する。

 どうやらやる気のようだ。

 攻撃態勢に入っている二人には目もくれず立ち止まることもなく同じペースでこちらに近づいてくる。


「闇蝕魔術≪黒き猟犬ブラックハウンド≫!」

「光聖魔術≪聖光貫ライトペネトレイト≫!」


 ロサの周囲に術式が浮かび上がり、その中から真っ黒な犬型の影が何匹も這い出てくる。

 サラの術式はアリアゴールの真下に術式が浮かび上がり、円状の光の帯となってアリアゴールの周囲を取り囲む。

 光の帯は高速でアリアゴールの周囲を回って加速していき、複数の光の棘となってアリアゴールを襲う。しかし、その光の棘はアリアゴールの体に触れた瞬間、弾ける様に霧散する。

 サラの攻撃に続くようにロサによって繰り出された黒犬達はアリアゴールの体に噛み付こうとするが、アリアゴールに噛み付いた瞬間、爆ぜる様に跡形もなく消失する。


抵抗レジスト…!?」

「…いえ、違うわ!単純に攻撃が通っていないだけ…!」


 サラは魔力障壁による抵抗レジストと推測していたが、ロサの見立ては正解に近いかもしれない。というよりも、アリアゴールからは最初に遭遇した時から魔力を一切感じない。

 通常魔力総量は人によって違いがあり、多寡の差はあれど魔力が一切ないということは少なくとも私がこの世界で経験した中で一度たりともなかった。

 これに関して言えば、私達が知らないだけかもしれないけれど。


「拙い攻撃だな…取るに足らない矮小な存在だ。…?」


 ロサとサラに顔を向けていたアリアゴールは思わず首を傾げていた。

 それもそのはずだ。先程までいた一人が見当たらないのだから。


「雷電魔術≪落雷撃サンダーボルト≫。」


 突如、アリアゴールの頭上から雷が落ち、命中する。

 

「風嵐魔術≪風断ウィンドカッティング≫。」


 私はアリアゴールの背後から風嵐魔術を発動し、一筋の風の斬撃が轟音を立てながらアリアゴールの背中に直撃する。

 そう、見当たらなかった一人は私の事だ。

 サラ達が魔術を発動するタイミングでサラの背後に隠れながら≪転移テレポート≫を使い、アリアゴールの背後に移動していた。

 背後という死角からであれば、私の魔術を避けられることはないだろうと思ったからだ。


「――なるほど…。」


 アリアゴールは自身の腕を眺めながら呟く。

 私達はアリアゴールの変容に目を疑う。

 先程までは人間と同様だった姿が、一変したからだ。

 厳密に言えば、形自体は人間とそう変わらない。しかし、アリアゴールの腕の関節部分に球体が埋まっていた。

 それはまさに関節球体人形のようだった。

 アリアゴールは私と同じく人形だった…?


 それよりもサラ達が放った魔術は全く効いていないが、私が放った魔術はアリアゴールに幾ばくか効いているようだった。

 サラ達の魔術は当たると同時に消滅したが、私の魔術は消滅せずに命中した。

 これはどういうことなのだろう。

 私が守護者と呼ばれる存在だからだろうか?

 そういえば、勇者の攻撃もアリアゴールに効いているようだった。しかしながら、効いているといってもそこまでだ。

 現に中級の二つの魔術を全開の威力で当てたのに、ピンピンしていた。


「目障りな人形だ…やはり貴様ら三人は確実に殺す。」


 アリアゴールは私の方へと手をかざす。そして、手をかざしたと同時にアリアゴールの目の前に巨大な術式が浮かび上がる。

 見たこともない術式だった。少なくとも、中級の魔術ではない。

 上級か超級の魔術の類だろうか?ともかく、避けた方がよさそうだ。

 私の場合は多少欠損しても魔力炉と魔力さえあれば欠損部分を修復することが出来るが、アリアゴールが放とうとする魔術が直撃すれば無事では済まないかもしれない。

 私は嫌な予感を察知して、すかさず≪転移テレポート≫を発動させる。


「神代魔術≪光誕ノヴァ≫。」


 私の魔術の発動と同時に術式の光が強くなり、術式から思わず目を細めてしまうほどの眩しい光が凄まじい速度で放たれる。

 術式から放たれた光の熱線は遺跡ごと飲み込み、遺跡の背後にある山の一部まで射抜く。

 数秒の後、光が弱まり光の熱線が通った場所を見ると私達は驚愕した。

 数秒前まであった遺跡は跡形もなく消え去り、背後に聳え立つ山の一部分がまるでその部分だけ抜き取られたかのように欠けていた。

 熱線が通った地面は抉れて焼け焦げており、所々煙が立ち上っていた。

 その光景を目撃して理解した。

 遺跡や山の一部は熱線によって吹き飛んだのではなく、一瞬で蒸発したのだと。

 その思考に辿り着いた瞬間、私は戦慄した。

 ≪転移テレポート≫を使って避けていなければ確実に死んでいた。


「貴様の魔術…術式を介していない…?…まぁいい…。」


 アリアゴールは疑問の声をあげる。

 私の方も疑念を抱いていた。

 魔術というのは十一種類しかないはずだ。なのに、今アリアゴールが使った魔術はその十一種類のどの魔術にも属さないものだった。

 神代魔術と言っていたが、具体的にどんな魔術なのか分からない。しかし、凄まじい魔術であることは身をもって知った。

 私の魔術はサラ達に比べれば効いてはいるが、大したダメージにはなっていない。


 勇者は蹲ったままブツブツを独り言をひたすらに呟いていた。

 あいつはもう使えない。放っておこう。

 …そういえば、もう一人の方が見当たらない。

 ふと私がそう考えていると、私の目の前に誰かが私の盾になるかのように立ち塞がる。


「…。」


 私はサラかと思ってみるとその予想は違っていた。

 その少女には見覚えがある。

 私を裏切った女、小勇人チルドブレイブだった。


「……何のつもりですか?」


 私は思わず不機嫌気味な声で、小勇人チルドブレイブに真意を探る為に尋ねる。

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