第17話 魔王は魔王?
もっと止めるべきだった。後悔している。けれども、サラは底なしの善人で私が行かなくても自分一人だけでも勇者と共に遺跡に行っただろう。
そうすると考えていたからこそ関わりたくない勇者と
私はサラだけは信用している。彼女がいるからこそ話したくもない相手とも話せている。
彼女に余計な心配をさせたくなかった。
彼女以外の人間は嫌いだ。しかし、彼女は私がいい人だと思っているらしい。
彼女の推察は全くの間違いだ。
彼女と出会ってから彼女に振り回されて人助けばかりしている。今回もその一環に過ぎない。
私は他人が不幸になろうが死のうがどうでもいい。
彼女と私は正反対だ。だけど、人を信じすに生きようとしていたのに矛盾している。
それを信条とするならばサラも勇者達も見捨てて一人でどこかへ行くべきだ。なのに、そうしない。
彼女は疑うことを知らず、他者の為に平気で命を懸ける。放っておけば、悲惨な目にあうことは分かり切っている。
サラだけは何故か見捨てられず、放っておけなかった。
この矛盾した感情は何なのだろう――。
「な、何だお前は!?」
「…。」
私がそんな事を考えていると勇者は自身の目の前にいる大男に怒鳴るように問い掛ける。しかし、大男は勇者の問いには無反応だった。
その大男は私達には目もくれず、大部屋を見渡していた。
大男の見た目は不気味だった。眼球がなく肌が異常なまでに青白く、人間であれば紅色であるはずの唇は紫色をしており、生気を感じさせなかった。
これじゃあ、まるで…。
「そ、そうか!お、お前が魔王だな!?」
「…魔王だと…?」
今まで私達に興味を示さなかった大男は魔王という言葉を聞いた瞬間、勇者の方向へと顔を向ける。
目玉ないのに私達が見えている?その体どうなってるの?
魔王に反応したという事はやはりこの大男が魔王ということなのだろうか?
「違うな…魔王なぞ、
「…はぁ?」
一瞬、言っている意味が分からなかった。私以外の者もそう思っただろう。
魔王は滅んだ?そもそも、目の前にいる大男は一体誰なのか?
状況から考えると石棺の中身なのかもしれない。
もしそうなら大男は魔王という事になる。けれども、大男は魔王は滅びたと言う。
それが本当なのだとしたら目の前にいる大男は一体何者なの?
「う、噓をつくな!も、もしそうならお前は誰なんだ!?」
「…誰?…。」
勇者は大男に怯えながらも、弱々しい強気を見せる。
大男は勇者の発言に眉をひそめて、手に顎を当てて考え込むような動作をしていた。
一見しただけでもおかしな光景だった。
自分が誰なのかと問われて、答えられず、まるで自分が何者なのかを思い出すかのような素振りを見せるからだ。
「…あぁ、少し、思い出したぞ…我は、我の名は、アリアゴール…。」
私以外の全員が大男の名前を聞いた途端、石のように硬直していた。
アリアゴール…どこかで聞いたことがある単語ね。
…聞いたことがある所じゃなかったわ。
アリアゴール王国と同じ名じゃない。ということは、この国の関係者?
考えれば考えるほど訳が分からなくなった。
「つ、つまらない嘘を言うな!!死ね!!」
痺れを切らしたのか勇者はアリアゴールと名乗る大男に腰につけていた剣を抜き、思い切り振りかぶって剣を振り下ろす。
血の気が多い気がする。大方、殺られる前に殺ってやる!みたいな焦燥で先制攻撃したのだろう。
戦わずに話し合いで何とかなるのならそうしたいのに。
勇者が先走ったせいでその可能性がなくなった。
振り下ろされた剣はアリアゴールの体に届くことなく、彼の腕によって阻まれた。
剣で傷付いた腕からは出血はなかった。傷口からは暗闇が広がっていた。
「…我の肉体に傷をつけるとは…貴様は…いや、貴様ら三人から妙な力を感じる…。」
アリアゴールは自身の傷付いた箇所を眺めた後、私達の方向へと顔を向ける。
三人とは状況的に考えて私と勇者、
妙な力とは何のことか分からない。
何か変な力とか出てるのだろうか?
「あああああああああああああ!」
情けなく頼りない雄叫びを上げながら、勇者は再度アリアゴールに向かって剣を振り下ろす。しかし、今度は腕で防がれる事なく躱される。
「ぶほっ!」
躱すのと同時にアリアゴールは勇者の鎧ごと腹部に足で蹴りを入れる。
勇者は思わず吐瀉物を吐き出すかのような歪んだ顔になる。
メキメキとと音を立て、蹴られた部分の鎧がひしゃげながら、そのまま私達のいる場所まで吹き飛ばされる。
慌てた様子でサラが勇者の元へ安否の確認のために近寄る。
「…貴様ら三人だけは殺しておかなければならない…そんな気がする…ここで全員殺すか…。」
アリアゴールは私達に向けて手をかざす。
まるで、何かを発動させるために、何かを出すために。
深く考えなくても分かる。魔術か何かを出す気だ。
その思考に至った瞬間、全身に怖気が走る。
直感で理解した。遺跡外に出た方がいいと。
大部屋と言っても閉鎖空間であることに違いはない。
逃げ場である扉にはアリアゴールがおり、広範囲の攻撃がくれば全滅する恐れがある。
「―――ッ!≪
体が勝手に動いていた。
幸いにも私達はお互いの近くに固まっていた為、≪
私が魔術を発動する場合は術式を組み立てずに発動が出来るので、術式を組み立てなければならない魔術師よりも早く発動することが出来た。
≪
◇◇◇◇
間一髪だった。
もう少し判断が遅れていれば死んでいたかまでは分からないが、傷を負っていただろう。
遺跡の外は朝日が昇っていた。
遺跡内の出来事が何もなかったかのように風が吹き、動物が駆け回っていた。
平和そのものだった。
「もう駄目だ…何もかもお終いだ…死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない…。」
「な…何で…私まで……?」
助けられるとは思っていなかったのか、へたり込んでいる
勇者の方は切迫した表情で頭を抱えて独り言をブツブツと呟いていた。
こんな奴らを助けたくなかった。だが、助けざる負えなかった。
助けなければサラが助けようと無茶をするからだ。
「勘違いしないでください。あなた方を助けたのではありません。主を助けたのです。」
こいつらの命を助けることはサラの命を助けることに他ならない。
こいつらの命に危機が迫った時、彼女は迷わず自身の命を捨ててでも助けるだろう。
そんな事はあってはならない。断じて。
…本当に何をやっているのだろう…彼女と出会ってから調子が狂う。
自分が自分でないみたいだ。矛盾したことばかりしている。
「それより
「そうね。あれは倒さないと駄目よ。厄災の類だと思う。」
「それには賛成ね。でも、どうやっ――。っ!!」
ロサとサラがアリアゴールの対処を話し合っている最中、けたたましい破壊音を立てながら遺跡の壁面が吹き飛ぶ。
砂煙が舞い、その中からアリアゴールがゆるりと歩んでくる。
早すぎる。もしかして、遺跡内の壁面を破壊しながらまっすぐ来たのか。
「ここにいたか…。」
ロサもサラも構えを取りやる気のようだ。
私も加勢しなければ。でも、倒せるのだろうか?
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