第14話 遺跡探索

「よろしくお願いします。」

「よ、よろしくお願いします…。」

「よろしくね。」


 そう言い、勇者と小勇人チルドブレイブの少女はロサに恭しく頭を下げる。

 何故ここにロサがいるのかというと私の考えでサラに同行するように提案したからだ。

 もし万が一、魔王が復活していたのなら戦力が多い方がいいと思ったからだ。

 私たちは今封印の遺跡に向かって、遺跡がある森の中へと歩を進めていた。


「それにしても、ミラの提案とは驚いたわねぇ…。そんなにサラが心配なの?」

「悪いですか?」

「いえ、別に~?」


 私は腕を組みながらロサにそう答えると、彼女はニヤニヤしていた。

 何か企んでいるのだろうか?

 まぁ、今はそんなことはどうでもいいわ。


「しかし、魔王ねぇ…。魔王がアリアゴール王国の近くの森の奥地に眠っているなんて初めて知ったわ。」

「魔王が眠っているかどうかを確認しに行くのが、今回の目的です。」

「他の国にも封印の遺跡はあるの?」

「あります。ライゼフ共和国にも封印の遺跡があり、俺たちが確認した時には石棺は閉じられていました。ライゼフ共和国はまだ復活していません。他の国は分かりませんが…。」


 勇者とロサとの会話を聞くに魔王が眠る封印の遺跡は国に一つ存在しているらしい。


「封印の遺跡には魔物は潜んでいるの?」

「ライゼフ共和国の遺跡に入った際には多少いましたが、大したことはありませんでした。石棺が納められている部屋には丸一日はかかりました。遺跡内は結構広いですね。」

「なるほど。それじゃあ、行きましょうか。」


 私たちは森の奥地へと進むと、木が生えていない開けた地形に出るとそこには遺跡があった。

 遺跡は大きく、石壁には苔が生えており、所々石が欠けていた。

 いかにも、古くから存在するような遺跡だった。

 

「着きましたね。中は結構広いらしいですが、道は分かるのですか?」

「あぁ、外観はライゼフ共和国の遺跡と同じだ。恐らく遺跡内の構造も一緒だろうから迷わないと思う。もし、違っていたら一度引き返そう。」

「わかりました。それでいきましょう。」


 遺跡の中へと入り、細長い通路を進むと大部屋が広がっていた。

 その部屋は正方形になっており、各方面に奥に続く通路があった。

 道覚えられない…帰りは≪転移テレポート≫の方がいいかもしれないわね。


「道が多いけど、勇者さんは分かる?」

「…ライゼフ共和国とは少し違いますが、概ね似ているので大丈夫そうですね。このまま進みましょう。」


 そう言い、勇者は私たちを先導する。

 遺跡自体は単純なものだった。

 似たような部屋と通路があり、迷路に近かった。

 

 しばらく奥に進むとまた大部屋へと出たが、他の部屋とは様子が違っていた。

 辺りには石柱が倒れていたり、血痕の跡があった。

 

 事件現場?

 …まぁ、こんな場所に人なんて滅多に来ないし、違うか。

 ということは…。


「…主。」

「うん、分かってる。ロサ?」

「はいはい、分かってるわよ。」


 ロサもサラも分かっている様子だが、勇者と小勇人チルドブレイブはそんな私たちを見てきょとんとしていた。


「あの、何が分かったんですか?」


 勇者は腑に落ちない顔で私たちに尋ねてきた。

 こいつ本当に勇者なのかしら。

 よくこの国まで来れたな。


「この様子を見ると魔物が潜んでいる可能性があります。潜んでいなくても近くにいるかもしれません。」

「あぁ、なるほど。」


 サラが勇者にそう言うと、彼は腑に落ちた顔をした。

 サラは勇者に説明し終えると支援魔術を唱える。


「≪探知スキャン≫。」


 ≪探知スキャン≫は一定の距離内にいる生体反応を探知する魔術だ。

 この魔術は探索には便利だが、欠点はある。

 敵味方を識別することはできないので、人が多いところで使っても意味がないが、こういった人が寄り付かない場所では魔物を発見するのには最適だった。


「倒れた石柱に6匹、石柱の影に4匹いるわ。」

「わかりました。」

「了解。」


 私とロサはすかさず魔術を唱える。


「≪氷下フロストダウン≫。」

「≪影針シャドウニードル≫。」


 私が氷結魔術を唱えて倒れた石柱の6匹に、ロサは闇蝕魔術を石柱の影の4匹に向けて放つ。

 私の真下から氷の吹雪が舞い、倒れた石柱ごと魔物を凍り付かせる。

 ロサが放った魔術は石柱の周囲に術式が浮かび上がり、そこから影が這い出る。

 這い出た影は針となって、石柱の陰に隠れた魔物を穿つ。

 

「ギャ!」


 針に貫かれた魔物は断末魔を上げ、息絶える。


「これで全部ですね。ここから先は気を付けながら進みましょう。」

「そ、そうだな…。」


 勇者が死んだ魔物を横目で見ながら、青ざめた顔で力なく返事をする。

 ん?何か変だなこいつ。


「どうかしましたか?」

「い、いや、何でもない…。」


 やっぱりどこか様子がおかしい。

 まるで魔物を恐れているかのような反応だった。

 そりゃ、魔物は恐ろしいものだろうけれど。

 

 しかし、こいつらはこの国に来る道中でも魔物に出くわしている筈だ。

 どれだけ安全なルートを通ったとしても全く魔物が出ないというわけではない。

 それに勇者というのであれば、チート能力じみた力を持ってそうなイメージだけど…。


「…ひょっとして、戦ったことないんですか?」

「!ば、馬鹿なこと言うな!俺は勇者だぞ?戦ったことくらいは…ある…。」


 この反応絶対ないでしょ。

 大丈夫かこいつ。

 この調子だと小勇人チルドブレイブも使い物になるかどうか分からないわね。


「…それもそうですね…。とりあえず先へ進みましょう。先導してください。」

「も、もちろんだとも。俺についてこい。」

「……。」


 先行きは不安しかない…。

 こんなのが勇者で大丈夫か、この世界…。

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