第15話 痛恨のミス
「……この遺跡、外見に似合わず中は結構広いのね。」
「そうですね、何かしらの魔術が込められているのかもしれません。石棺のある部屋までは残り半分ですね。」
「遺跡の外はもう夜ですね…。」
勇者とロサはそんな会話のやり取りをしている最中、私は≪
≪
それは透視だ。
ある程度の範囲内まで物体が阻まれている場所の内部を視認する事も可能で、その逆も然り。
「今日はここら辺で野宿をしましょう。明日には着く筈です。」
「わかりました。」
「了解。」
「…わかりました。」
私達は勇者の言葉に従い、野宿の準備をし始める。
幸いにも焚火をしなくても遺跡内は明るかった。というのも、遺跡に内のあちらこちらに光源となる発光体が壁に張り付いていたのだ。
焚き火を起こす必要はなく、各々は寝床を用意する。
寝床といっても薄い毛布と薄いシーツを床に引いた簡素なものだった。
私の場合は睡眠を取る必要がない体なのでこのまま待機になる。
「私は睡眠が必要ないので、魔物が来ないか見張りをしています。皆さんは安心して寝てください。」
「ん。了解。」
「ありがとうね、ミラちゃん。」
サラとロサはそう言いながら、寝床へと戻っていく。
私は倒れた支柱を椅子代わりにしてそこに座る。
人間だった時は一日の四分の一を睡眠に費やしてた。しかし、今はその生理的欲求はなかった。
最初の頃はこの生活スタイルに慣れなかった為に睡眠を取ろうとしていたが、結局寝れなかったのですぐに諦めた。
≪
…支柱の傷の数でも数えようかな?
…そんなくだらない事を考えるよりも他の事考えた方がよさそうね。
魔王の事でも考えるか。そもそもの話、魔王については疑問が多い。
魔王というのは魔を統べる王のことだ。
魔を統べるという事はそれなりに部下も多いはず。なのに、魔王軍なる者の拠点はおろか活動形跡すらこの王国では全く聞かない。
魔王の存在自体はサラから聞いた時、遥か昔に存在したという。しかし、魔王の軌跡は伝承や文献にもないらしい。
魔王自体は存在していた可能性はあるが、部下や末裔の存在が一切ない。
この世界の魔王はそういう者だと言われてしまえばそうなのかもしれないがどうにも引っ掛かる。
…ひょっとして勇者は噓をついている?でも、あの慌て方は嘘じゃないような気がする。
「あ、あの隣いいですか…?」
私が熟考している最中、ふと声を掛けられる。
振り返るとそこには一人の少女がオドオドしながら立っていた。
赤髪のハーフアップに気弱そうな桃色の瞳をしており、首には黒い布がマフラーのように巻かれている。
両肩が空いたチャイナドレスのような模様が入った黒服を着ており、肌色のショートパンツに腰にポーチのようなものが付いていて、靴はサラが履いているような靴だった。
この女は私と同じ、世界にたった一人しかいない種族の守護者と呼ばれる存在だ。そして、こいつの前世の名前は前世で私を裏切った林叶と呼ばれる人物だった。
何故今のタイミングで私に声を掛けてきたのだろう。
「…構いませんよ。どうぞ…。」
正直言うとあまり関わりたくないので話しかけないでほしかった。けれども、下手に拒絶すると後が面倒になりそうなので最低限の応対をする。
さっさとこの遺跡探索を終わらせてこいつらと離れたい…。
「あ、ありがとうございます。あ、あのミラさんはお強いんですね…。」
「そうでもないですよ。それよりもあなたも寝たほうがいいのでは?」
今まで寡黙だった奴が何の前触れもなく話しかけてきたことに若干の動揺をする。
私が知る林叶は特定の人物とは話すが、それ以外の人間とはあまり積極的に話さないタイプだ。
そんな相手が私が一人になった途端話しかけてくるのは意図を感じる。
私は礼儀をわきまえつつ、遠回しに早く離れろと伝えてみる。
「い、いえ、その、寝れなくて…。」
「はぁ、そうですか。話し相手であれば勇者さんがいると思いますが…?」
「…あの人はいいんです。あんまり話したくない…。」
話したくない?付き合ってたんじゃないの?
…いや、あんまり深入りしないでおこう。
こいつらがどんな関係であろうが、私にはもう関係のないことだ。
「…。」
「あ、あの。ミラさんは前世ではどんな人だったんですか?」
「私ですか…。」
さて、どう話したものか…。
私の前世は仙石佳織で、林叶と田中明人との関係者だ。そして、今はそれを隠している訳だけど私の前世をそのまま言うと確実にバレる。
私は顎に手を当てながら、バレない為に当たり障りのない事実を伝える。
「そうですね…私は普通に会社勤めのOLでしたよ。そんなに大した人間ではありませんでした。平凡な人生です。」
「そ、そうなんですね。…あ、あの、こう言うのも変なんですけど、ミラさんは私の知っている親友と似た雰囲気で話しやすそうだと思ったので、つい声を掛けてしまいました。すみません…。」
その親友、私じゃねーか。
バレてはいないはず、バレてはいないはず…。
ふぅ…心臓に悪い会話だわ。といっても、心臓はないけど。
「いえ、別に…。」
「俺もいいかな?」
「…どうぞ。」
本当は嫌ですけどね。
ここで断るとまた面倒な事になりそうなので、取り敢えず了承する。
勇者は私の返答を聞くと
ひょっとすると気のせいかもしれない。それぐらい、一瞬であった。
「私に何か用ですか?」
「…あれから俺なりに考えたが、こうしないか?俺達が他の守護者を集めたら、仲間になってくれないか?」
何を言い出すかと思えば、またそれか。
一度はっきりと断ったはずなのにくどいわね。
これはまた断ってもまた来そうね…。
何度言ってきても答えは同じなのに、いい加減しつこい。
「…考えておきます。それよりもあなた方は守護者集めよりも戦いの経験を積んだ方がいいのでは?」
「…どうしてそう思うんだ?」
「ここまでの行動と反応を見れば分かります。特にあなたは素人の中の素人でしたよ。」
「…。」
「そ、そんな事は…ない…。」
勇者はその点を指摘された時、目を泳がせながら視線を逸らし、ぎこちない口調で否定する。
お前ら嘘下手か。
あからさますぎる…。
もう少し隠す努力をしてほしい。
まったく…。
「こんなのをあきちゃんとかかなちゃんとか呼んでた私がバカみたいですね…。」
「…え?」
「…え?」
えっ…何その反応。
何か変なこと言った?というか、今私なんて言った?
「あっ…。」
あ、やべ、心の声が漏れてた。
思わずこいつらを生前での愛称について言及してしまった。
頭の中で思っていたはずなのに声に出てしまった…。
ど、どうしよう…。
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