第12話 勇者来訪

 国王からまた呼び出された。

 サラに用があるのかと思いきや、私の方に用があるらしい。

 ニック伯爵の件以来、サラが契約魔術の距離制限を解除してくれたので1人でも行く事はできたが、サラも一緒について来るつもりみたいだ。

 私は言っても聞かないだろうと思い、諦めて同行を許可した。

 宮廷へと向かい、私たちはある一室へと案内される。すると、そこには男女の2組がソファーに座っていた。


「…やっぱり君だったか…。」


 私たちは彼らに対面するソファーに腰を掛けると、男は私の顔を見るなり、そう呟いた。

 何処かで会ったことがあるのだろうか?

 …あ、よく見たらこいつらあの時、商店街であった男と少女か。すっかり忘れていた。


「国王陛下からは私に会いたがっている人がいると聞きました。あなたがそうですか?」

「そうだよ。」


 マジかー。何だか嫌な予感がするのは気のせいかしら?


「それで、用件は何でしょうか?」

「…その前に1つ聞いておきたい。君は神人形オートドールだよな?」

「…はい、そうですね…。」


 あの時は面倒事を回避するために嘘をついたがここまで来ると誤魔化せそうにない。


「やっぱりそうだよな…。なら、君は神人形オートドールついてどこまで知ってる?もし、詳しく知らないなら教えておかないといけないんだ。用件に関係していることだからな。」


 私に会いに来た用件と関係している?どういうこと?


「…神人形オートドールについて知っていることは、500年の周期で必ず現れるたった1体しかいない種族だということしか知りません。」

「…なるほどな。そこまでしか知らないのか。」

「その口ぶりですと、私のことを知っているようですね。」

「ユソリアル国にあった文献を調べたからな。」


 ユソリアル国…聞いたことがない国だ。


「まず、この世界には3つの存在がいる。勇者と魔王、そして、君みたいなこの世界にたった1体しか存在しない守護者とよばれる存在だ。」


 勇者?魔王?ベタな設定だな!というか、この世界には勇者と魔王がいるのか。

 私ゲームやったことがあるから知ってるわ。ドラ〇ンクエ〇トにも出てきたもの。


「守護者というのは一体何なのですか?」

「守護者というのは、勇者と共に魔王に対抗するために存在する種族らしい。…信じられないかもしれないが、俺はこの世界では勇者という名前で呼ばれている。」


 マジでか。私そんな奴だったのか…。

 知らなかったわー。だってこの国の人、誰も知らないんだもん。

 魔王とは関わり合いたくないわね。

 サラに危険が及ぶようなら話は別だが、それ以外で命を懸けてまで戦う義理はない。だって、魔王ってめちゃくちゃ強そうじゃない?

 それよりもこの男が勇者だったのか…あんまり強そうに見えないわね。


「そして、守護者という存在は8人いる。君と俺の隣にいるこの子も守護者だ。」


 そう言いながら男は隣に座っている少女に目を向ける。


「は、初めまして、小勇人チルドブレイブと呼ばれています…よろしくお願いします。」


 少女はオドオドした態度と弱々しい口調で私に向かって座ったまま挨拶をする。

 こんな小さい子が守護者なのだという。といっても、私も他人のことをとやかく言える容姿ではないのだが。


「…他にも守護者がいると言いましたが、他の方には会ったのですか?」

「いや、まだだ。君で2人目なんだ。小勇人チルドブレイブとはライゼフ共和国という国で会ったんだ。」


 話が読めてきたわね。

 私はこの男が私をどうしたいかが予想できた。そして、その予想は私にとっては最悪のものだ。


「…あともう一つ聞きたいことがある。君は前世の記憶はあるか?」

「え!?」


 私はその言葉に驚愕し、思わずソファーから立ち上がってしまう。隣に座っていたサラは、何が何だか分からないという顔をして困惑していた。

 前世の記憶ですって!?何故この男は、私に前世の記憶があることが…。ひょっとして…。


「その反応はあるみたいだな…。」

「あなたも…?」

「あぁ、そうだ。俺と君、そして、俺の隣に座っている彼女も転生者だ。」

「…日本出身者ですか?」

「彼女も俺もそうだ。君もそうみたいだな。」


 なんということだ。

 この世界には私以外にも転生してきた人間がいるようだった。しかし、今考えれば不思議なことではない。

 私だけが特別というわけではないのだから。


「ちなみに、あなた方の前世の名前は何と言うのですか?」

「あぁ、俺の名前は…。」


 私は勇者が言った次の言葉に目を見開いた。それは、この世界ではもう二度と聞くことはなかったであろう名前だったからだ。

 私はその名前を聞いたことがある。前世ではいつも聞いていた名前だからだ。

 嫌な思い出というのは忘れたくても、いつまで経っても忘れられないものだ。

 そう、この男と少女の名は―――。


「俺の名前は田中明人、俺の隣にいる彼女は林叶という名前だった。」


 私を騙し、裏切った元恋人と元親友の名前だった。

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